「第2幕、第6場――④」
「…………あああ。ああああああああああ。あああああああああああ……」
アトロ・バンテラス演じる兵士が、涙を流しながらも懸命に食い縛り閉じていた口から、とうとう怨嗟と悔恨、そして絶望の呻きを漏らし始める。
その声に釣られ、思い思いの場所に腰掛けた多くの人々が涙を流し始めた。
彼らを見回し、ユニアが涙する。
しかしクローネはそのまま――――彼らに背を向け、自分の執務室の扉へと歩き出した。
「……待てよ」
アトロ扮する兵士がクローネを止める。
至極冷静な眼差しで、クローネは兵士を捉えた。
「結果の報告だけか?……導けよ。これまでのように、俺達を」
「考える時間をくれ。そして、皆が悲しみを乗り越え、また前を向けるだけの時間も。君にもそれが必要だろう」
「どこだよ。前って。……どの方向のことを言ってんだよ」
「――――――」
自虐的な笑みを浮かべ、男が小さく首を振る。
「……ネコかぶってんじゃねぇぞッ!!! 一人で平気そうな顔しやがってッ!!――――言えよちゃんと。負けたんだろ俺達は。もうどこにも『前』なんてねぇんだろうがッ!!」
兵士がクローネに掴みかかる。
慌てて涙を拭い、引き離そうとユニアも立ち上がった。
「全部、全部。全部なくなったぞクローネ、ええ? 親兄弟も妻も息子も友達も先生も、俺には誰も居なくなったぞッ!! 俺だけじゃねぇ、ここに居る連中はどいつもこいつも!!!」
「ちょっと――やめなさい!」
「どうだよ昔と比べてよ、ああ? お前達三人に乗せられて!!! 人間はもっと自由に暮らせるだのなんだの言われて!!! 結果がコレか?? 自由になったか俺達は??――――自由なんてカケラも無くなっちまったじゃねぇかッ!!!」
兵士がクローネを投げ飛ばす。
「何言ってるのッ!! みんな覚悟のうえでここまできたんでしょうッ!」
「自分が死ぬ覚悟なんざとっくに出来てたよッ!!!――――大切な人達を神の支配から解放するために死ぬ覚悟はッ!!」
「!」
「でももう誰も居ねぇんだよッ! 誰もいないんだよッッ!!!――――俺達に何が出来るよ。何が残ってるよ、あぁ?――――犬死にする未来だけじゃねぇかよッッ!!!」
地団太を踏むように、伏せて地を打つ兵士。
座り込む生き残りの中にはクローネを庇う者も、兵士に同調する者さえも、いなかった。
皆、悟ってしまっているのだ。
もう何をしても、本当に無駄だと。
どうあがこうと、泣き叫ぼうと。そう遠くない未来に、人間は滅亡するのだと。
だから。
「そうだ。きっと神も同じように考えてるだろう」
だからこそ、クローネの淡々とした声は、部屋へとやけに大きく響いた。
「だから、奴らは必ず『詰め』の先手を、打ってくるはずだ」




