「第1幕、第5場――②、実際役者などはどう感情に整理をつけているのだろう」
「……へ?」
あからさまな動揺を見せるクローネ。
対したマリスタは、こちらをロクに見ようともしない。
いや、練習に比べればいくらかマシになった方だが。
それにしてもたかが芝居で、若干の照れから顔を赤くするだけならいざ知らず。
「……魔法を使えるパートナーと、唇で契りを結ぶことで……魔法は、次元の違う力へと一段階、進化するん……だって」
耳まで真っ赤に染め、今にも泣きそうな顔でこちらを見上げてくるというのはどういう、その、アレなのか。
こいつがシャノリアに劣らぬ絶世の美少女であることを、こうして時たま強烈に思い出させられる。
出会ったあの日。
寝間着で俺の部屋に来た日。
俺の肩で力尽きた日。
俺の前で泣き崩れた日。
事ある毎に、何故こいつはこうして――――俺の心に、不意打ちで冷水をふっかけてくるのだろうか。
そしてその顔は本当に、なんだ。
台本には無い。
恥じらいながらも真っ直ぐに想い人を見上げ、しかし戦いの中である今は思いを言葉にはせず、ただ目と唇で気持ちを確かめ合う――――そうした儚さと意志の強さを併せ持った存在が、戯曲に書かれている魔女、タタリタなのだ。
結局マリスタは、ただの一度も筋書き通りにこのシーンを演じられぬまま、
「………………」
「っっっ!!!」
迫るクローネの唇を、ただ固まって受け入れた。
客席のざわめきが聞こえる。黄色い声援まで聞こえた。
触れたか細い両肩が、俺の手の下でビクリと跳ねる。
お陰で俺の手のひらまでいやに鋭敏になり、毎度気を使う。
だがこれも台本の筋書きで、そしてシャノリアは鬼監督だった。
だからあたかも本物の口付けに見えるよう、二人の口の間にだけ物理障壁が敷かれることになったのだ。
俺が唯一持ち得る、幾多の呪文を組み合わせて開発した独自の魔法――――魔術盾の砲手が、まさかこんな所で役に立つなどと誰が予想出来ようか。
当時の俺の機転に喝采を送りたい。
〝ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
〝これがお前の結末だ〟
だってそうだ、芝居とはいえガチの口付けなど死んでも御免だ。パールゥからの殺意だって凄まじかった。
余談だが、このシーンのパールゥの机に伏せさせたのは監督と、なんとシスティーナの案である。一応、ウィザードビーツのライブチケットの件を至らぬ方向に導いてしまったことへの借りを返したつもりらしい。
光が舞う。
地面に演出班の傑作である魔法陣が歯車のように組み合わさって描かれ、噛み合った陣が回りながら光を発し風を起こす。
神の悪戯か、この演出がまた長いのだ。




