「翻弄される童貞フェミニスト」
俺は条件反射のように顔を逸らすしかない。
初めて会ったときから若干視線を引かれていたが、どうしてこいつはこう、ただただ無駄に艶やかなのか。
目に毒だ。とても見ていられない。
「ふふっ……どうした。食うと言うなら甘噛みくらいして欲しかったか?」
「殺すぞ……っ!」
「強い言葉だ。初心な童貞には刺激が強すぎたようだな。可愛い奴だ」
目を細める魔女、もとい悪女の長い髪が俺の頬を擽る。俺はカッとなって全力でもがいたが、肩から体を押さえ込まれていてろくな抵抗も出来ない。
「そう恥ずかしがるな、本当に食べたりはしない――――ああ、それとも」
魔女の顔が近付く。
物理法則を無視したようなとんでもない柔らかさを胸に感じ、否応なく見開かされた視界に映った魔女は、
「礼でも兼ねて、今度はちゃんと――――して欲しいか?」
真顔で。
鼻息が感じられる程に近くで、そんなことを言う。
俺は、ただ呼吸を平静に抑えることしか出来なかった。
「…………違うか。そうだよな、悪かった」
そう笑って――魔女はそのまま、俺の肩に顔を預けてくる。
突然流れ込んできた少女の匂いに息が詰まってしまう。
男に跨った少女が、そのまま体を預けている――端から見たらとんでもない絵面だ。部屋の鍵はしてあるんだろうか。いやあくまでこんな所を誰かに見られたら困るという点でのことだが。
「――――ていてくれて、よかった」
「――な、何だと?」
マットレスに口を当てたまま何かを言って、魔女は唐突に俺を解放する。飛び起きるようにしてベッドから体を起こすと、魔女はキャスター付きの椅子に腰掛けて足を組んだところだった。奴の衣服には乱れ一つない。
「まったく。ほとんど面識もない女を押し倒すから何かと思えば、自分の心さえ見定められずにいるようだな。童貞」
「童貞はやめろ」
「違うのか?」
「五月蠅いっ」
「ではなんだ。生娘とでも呼ぼうか?」
「ふざけるな」
「ふざけてなどいないさ。組み伏せられている時のお前の表情、まるで初めて褥を共にする処女のようだったぞ。いっそ女に生まれてくれば――――」
「ふざけるなって言ってるんだ!!」
怒声に驚いた様子もなく、魔女が神妙な顔つきになる。
たった一言で、俺は肩を上下させるほどに息を乱していた。
魔女のわざとらしい溜息が室内に響く。
「冗談の通じん男だ。面白くない」
「お前と冗談を交わす間柄になったつもりは毛程も無い」
「信用のないことだ」
「当たり前だ。俺はお前を一切信用してない」
「…………」
魔女は動じない。
動じず、ただ俺を見据えるだけだった。
「…………聞きたいことが山ほどあるぞ、魔女リセル。お前、」
「パーチェ・リコリス」
「どうして……は?」




