「第1幕、第1場」
暗闇の中。
一柱の神の声が、響き渡る。
「そらみたことかっ! 人間が、我らへ反旗を翻したぞっ!」
いそいそと舞台を横切る、青白い顔に白の長髪を垂らした神、プデス。
観客の背後から光の筋が伸び――プデスの声に応じ、新たな神が舞台に現れる。
「やはりか……我々によって『完璧』に作り上げられておいて、その創造主によくもまあ反逆などと大それたことを」
現れたのはオレンジ色の怒髪を持つ男――――ロハザー・ハイエイト演じる神、キュロス。
いずれも貫頭衣を着た神たちが舞台中央に歩み寄り、顔を突き合わせる。
「天下界とはいえ、我々と同じ世界に住まわせたことが原因ではないのか? より高位の存在の身近にいたせいで、過度な渇望を抱くに至ったのでは」
「いや違う。そもそも、奴らから力を取り上げ過ぎたのが原因なのだ。ゼタンは人間に、変態する力も魔法の力も与えなかった。それが奴らの欲望を拗れさせたのだ!」
「本当にそう思うか?」
プデスとキュロスが、舞台の両端に下がる。
中央から、二人よりも遥かに薄い貫頭衣を纏った神――――ギリート・イグニトリオ演じるゼタンが現れた。
「ゼタンッ! この不始末をどうつける気だっ」
「ゼタン、今からでも遅くない。彼ら人間に、我らと同様の――」
「なかなかどうしてこれが益でな」
「……益?」
慌てふためく神、プデスが問う。
ゼタンが舞台の際、最前列の観客の眼前まで歩み寄り、観衆をじっくりと眺め回した。
「人間の心が生み出す力こそ、我らの目的だ。そのためにこそ、我々は存在し、そして人間を生みだした。違うか?」
「……反逆の心が、奴らの精神と意志を増幅させていると?」
「感情という増幅器を伴ってな」
「……かんじょう!?」
プデスがあんぐりと口を開ける。
キュロスがゼタンに近づいた。
「どういうことだ? 感情が、人間の心の力を増やしたと?」
「ああ。数十倍にもな」
「数十……!」
「皮肉なものだ。我々が最も忌み嫌う産廃、畜生共の反逆の原動力が……我々に最も多くの益をもたらしてくれるとは。プデス、そなたはこれを失敗と見るか?」
「……、」
「だが、その感情は危険なものだ。矛先は間違いなく我等を向き、目的を果たせば感情は消えてしまう。そんな不安定なものに頼って」
「消えぬようにすればよかろうが」
「力を集――――消えぬように?」
「っ……ゼタン、ゼタンッ! 何を考えておる。一体何を企んでおるッ!」
「何も。ただ……今まで通りに、しようと」
「それが出来ぬからッ――!」
「負の感情こそ最大効率。生かさず殺さず、その状態を維持させるのが最善。そうであろうが」
「言ったろう、それは危険で――」
「危険など無い。お前が言ったのではないか、キュロス」
「私が?」
ゼタンが中央奥に下がり、肩越しにキュロスを見る。
「奴らは変態できん。魔法を使うことも出来ん。そして、我等はその両方を行使することが出来る。――――その力が何十倍何百倍になろうとも畜生は畜生だ。その生殺与奪は、常にこの手の中にある。――――何をしようと、奴らは我々に勝てんのだ」
笑い声と共に去る、人間を、世界を作り給うた創世神。
二柱の神は、それぞれに不安の面持ちでゼタンを見送った。




