「その功を、自らに宿し」
フェイリーが声を低くし、テインツに視線を送る。
彼はそれを、真正面から見つめ返した。
遅れて現れたシータが、不安そうにテインツへ、俺達へと目をさ迷わせた。
「そいつは嫌な奴です。いつも涼しそうな顔をして腹の中を見せなくて、自分の感情や都合で人を利用して、その好意につけ込んで。お世辞にもいいやつだとは言えません」
「ギリート。空気を読め」
「くっ……ぷ。はい。ごめん」
窘めても壁を向いて笑いを漏らし続けるギリートを全員がひと睨みし、視線を戻す。
「それで? その嫌な奴の肩をお前は何故持つ」
「でもアマセは、俺を救ってくれた」
「っ――」
――ギリートではないが吹きだしそうになった。
勿論笑いの意味ではなく、だ。
〝だから――これきりだ。これ一度だけ――――もう一度だけ、背負ってみよう〟
そんな世迷言を吐いた、あの日のケイ・アマセを思い出す。
だがあれだって、ケイ・アマセが自分の都合で背負おうとしただけだ。
究極的には、テインツが俺に恩を感じる必要など微塵も無い。
……無い、筈で……
「それはお前の都合だ。信用に足る客観ではないな」
「奴はプレジアを変えた。貴族と『平民』の争いを終わらせるキッカケを生んだんです。最後には自ら、僕らの想いを引き受けて」
「クサい友情話はもうやめろ」
「これは友情などではありません。事実です」
「何が事実だと? 貴族と『平民』の争いは終わったか? なあ、バディルオン」
「――――」
「お前は、友人がやられたのを見て真っ先に『平民』を疑っていたな。どうだ、争いは無くなったのか? 貴族と『平民』の小競り合いはもう起こらないと、それがアマセの成果だと言えるのか?」
「レットラッシュさん、僕は――」
「無くなっては、いません」
ビージが静かに答え、
「テインツは『キッカケを生んだ』と言ったんです」
テインツに向き直ろうとしたフェイリーを、更に答えて制止した。
「だから何だ? キッカケを生んだ、その証拠がどこにある? 今が口先で乗り切れる場面じゃないことさえ解らないのか、バディル――」
「俺達です。……証拠はっ」
力の籠り始めたビージの言葉に、フェイリーが眉を顰める。
無論、俺も。
「――――俺――――俺は。奴を殺そうとさえ思っていました。本当に。今だって本当はっ……クソほどいけ好かねえ奴だと思ってますッ。……ッでも、」
ビージが拳を握り締め、ぶるりと震わせる。
「……死ぬべきは俺だった。力に驕り名に自惚れ、感情に溺れた俺だったんですッ……!」
「もういい。沢山だ。付いてこいアマセ。お前を拘束する」
「そんなことが言えるまでにッ!!!!」
シータが、マリスタが「きゃっ」と小さく悲鳴をあげ、耳を塞ぐ。
ビージは砕けそうな程噛み締めた奥歯からゆっくりと力を抜き、開いた口から空気の塊を吐き出して、体の力みを解いていく。
「……俺はコイツのおかげで変わったっ。俺だけじゃないっ、テインツも!……他の奴らも、みんなだ!」
「黙れ。何度言っても同じだ、キッカケを得てプレジアが変った証拠など何も――」
「だったら証明しますッ!!」
テインツが、フェイリーの前に跪く。




