「悪夢、そして微笑む悪女」
目の前で消えていく妹を、俺は成す術もなく見送った。
感じたのは、熱さ。熱さ。ただ熱さ。
「――――」
――周囲を見回す。
つい数分前まで、そこには暖かな明かりがあった。温かな食事があった。ゆっくりと回るファンがあった。家族の笑い声があった。
今、そこには何もない。
ただただ、黒く炭化した、最早何だったのかさっぱり分からない残り火。
形さえ残っていないそれらすべては、消し炭としか言いようがないほどに燃え果てていた。どこを見ても、黒とオレンジだけだった。
「――――」
黒尽くめの世界。
やがて押し寄せてくる絶望。
俺は、何もかもを失っていた。
暖かな明かりも。
温かな食事も。
ゆっくりと回るファンも。
家族の笑い声も。
「 、 、 、」
もう戻らない。
もう何もない。 ――どうして?
全部終わった。 ――なぜ?
何もかも消えた。 ――だれのせい?
みんな、死んだ。 ――わるいのはだれ?
「 」
妹だったかもしれない灰塵を抱き、ただ壊れた赤子のように泣き叫ぶ子供。
「 」
残り火は燃え盛る。
俺の涙などでは、消す一助にさえならなかった。
熱くて、熱くて。なのに冷たくて、冷たくて。
だからこそ、天瀬圭。
約束を守れなかった俺の命に、元より意味など――――ある筈がない。
そうだろ?
「――じゃあ、きみはなんのためにいきているの?」
◆ ◆
「ッッッ!!!! っ、――――……」
跳ね起きる。
動悸、ついで全身の汗。
全ての感覚が、兎に角不快だった。
「――っ……」
……また、この夢。
やはりあの光景だけは、どれだけ見ても慣れることがない。
けたたましい鼓動を吸い込み吐き出した空気で押し込め、改めて周囲を見回す。
開けたばかりの目には眩しい灯り。
白を基調にした無機質な部屋。シャノリアの家とは明らかに違う、簡素な白いベッド。
見たことがある、この部屋は――医務室だ。
あの後――テインツとの戦いの後、ここに運び込まれたということか。
「…………」
体の痛みは、意識しないと感じない程度にまで薄れている。一見した所では、目立った傷も見られない。誰かが治療してくれたのか――治療してくれたとして、こうまで痛みを感じなくなるものなのか。
恐る恐る後頭部に触れる。傷口らしい手触りは、どこにもなかった。
「ようやく目覚めたか。もう夜中だぞ」
「そうですか。そんな時間までありがとうごz――――――、」
恐らく校医であろう声の主に礼を言おうとして――――俺は、部屋以上に覚えがあるその声に硬直してしまった。
声へ振り向く。声の主は可笑しくてたまらないと言った風情で体を抱えて笑い、俺の顔を見る。
「なんだ、その顔は。ようやく想い人と会えたんだ、もっと万感の少年のような感動を浮かべたらどうだ」
全く似合っていない白衣。
やたら凹凸のはっきりしている服装。
薄金色の瞳。
癖の強い、腰まで届く長さの薄色の髪。
――――なんで、こんなところに。
「リセル……!!」




