「首根つかまれし少年」
「え――、」
振り向くまでの間に事態の重さを把握し、目線が俺へと向くマリスタ。
俺は努めてその視線を無視した。
「お前はついさっき、自分で『治癒魔石なんて見たことが無い』と言ったはずだな。答えてもらおう。どうして治癒魔石が緑色の光を放つと知っていた?」
「あ、んぐ……!?」
「詰める相手が違うのよね。マリスタ」
「っ――ぱ、パーチェ先生?」
――何?
パーチェを見る。
同じタイミングで俺を見た女医と目が合う。
〝お前は終わりだ。天瀬圭〟
酷く冷たい瞳。
あのときと全く同じ顔の上に、丁寧に丁寧に猫を被せ、魔女リセルは邪笑んだ。
「動揺が透けて見えているけれど。ケイ・アマセ君」
『!?』
……一同の視線が俺に集中する。
魔女め……「契約」での繋がりで俺の動揺を察知しやがったな。
どういうつもりでの発言なんだ。
「同感ですね。皆さんが責めるべきはきっとマリスタではない」
「――――」
「ちょ――ちょっと、ナタリーまで何言いだすのよ!」
眉を吊り上げ、慌ててナタリーに近寄るマリスタ。
ナタリーもマリスタに近寄るようにして――彼女を隣に、俺へと対峙した。
「この男、どうやら襲撃事件に関して何かネタを握っているようですよ。マリスタだけはそれを明かされていたのでしょう。それを口走ってしまっただけです、マリスタは」
「な――ナタリーっ!」
「…………」
……ここぞとばかりに、こいつまで。
マリスタに火の手が及びそうになった途端にコレだ。
友達想いなことだ、全く。
その動きこそが、本当にマリスタを死の危険に晒すことになるとも知らずに。
〝王族に手を出した者が辿る道は知れている。祭りの期間中、常にお前たちの喉元には私の刃が当てられていることを忘れるな〟
……さて。
「……単刀直入に訊こう、アマセ。何か隠していることがあるのか」
「……ああ、ある。そして話せない」
「なっ……ケイ!」
マリスタが難色を示す。
お人好しめ。
せっかくナタリーが一時的にとはいえ擁護してくれたのだから、大人しく黙っていればいいものを。
「……え? 何アマセ君、それって敵対宣言?」
「違う。今は、大人数に話すことが出来ないというだけだ」
「詭弁にしか聞こえないな。悪いが、あくまで話さないというなら、アルクスはお前を――」
「死人が出る。話せないのはそれが理由だ」
「――ほお。死人ときたか」
なおも鋭いフェイリーの視線。
まあ、それが当然だろう。
だが、これは脅しではないのだ。残念なことに。
ココウェルの騎士――アヤメは、貫いたマリスタの治療に治癒魔石を使っていた。だから今こそ、俺は奴らに確信に近い疑念を抱いている。
だが、ここでココウェル達の素性をバラせばどうなるか。
万事上手くいくかもしれない。
素性が割れてしまった彼らは、大人しく王都に帰ってしまうだけかもしれない。
だが、もし万事が上手くいかなかったら。
果たしてそのとき、アヤメは――貫いたマリスタを、再び治療してくれるだろうか?




