「グッドエンドに魔王はいない」
遠くから聞こえるアトロの声が、俺のすぐ近くに落ち付いた。
……まだだ。
あと一仕事あるぞ、天瀬圭。
力を振り絞って這い、白煙に紛れてその場を離れる。
ハッピーエンドの絵面にゴミを添えるのは御免だ。
「ケイミー、しっかりしろ! 意識あるのか、おいっ!」
「……アマセ君は?」
「壊れた宝石が消えるのを見た。間違いなく勝ったよ、だから心配すんなそんなこと。体はどうなんだって聞いてんだよ!」
「へ……へへ、へへへ……そっか、よかった。……やるもんでしょ、私も」
「バッカ、だから体は……」
力なく倒れたケイミーを抱きかかえ、笑いながら彼女の体を心配するアトロ。
ケイミーも力尽きてはいるものの、笑っているようだ。
背を向けて這っているから見えないが、それくらいは察しが付く。
そんなところで力尽きるなよ。
どうせなら行き着くとこまで行っちまえ。
俺にとってはクソどうでもいい、ハッピーエンドに。
「頑張ったんだ、私――」
「ああ、すげー頑張ったよ。すげえよお前――」
「――あんたに追いつきたくて」
「――お。俺に?」
「あんたは学年も、上だしさ。今年で卒業して、プレジアからはいなくなっちゃうしさ。メチャメチャ頑張って、グリーンローブにもなっちゃうしさ。なのに私は実技でっ、レッドローブにおっこちちゃったしさっ」
「……ケイミー」
「んくっ……置いてかれたらどうしようっ、てっ。ひぅっ……あんたの目に私が映らなくなったらどうしようってっ、思ってさっ……怖かった。すっごく怖かったっ……!」
「お前……何考えてんだよ、そんなこと気にして」
「だから頑張ったっ。『頑張り過ぎだ』って言われ続けるくらい、頑張ったっ……!あんたに追いつき、たくって――――アトロにお似合いの、私でいたくって…………っっ!」
……煙が晴れていく。
会場の中央。
果たして、観客の目には――倒れ泣きじゃくるケイミーを抱き締めるアトロの姿が、しっかりと映った。
俺を見てる奇特な奴も居そうだな。
隅ではあるが気絶した振りでもしていよう。少しだけ残念な気もするが。
「馬鹿。バカッ。んなことしなくたって、いいんだよ。そんな風に思わなくっていいんだよ! そんなことしなくたって、お前はずっと――――俺はずっとお前のそばにいるから」
「!!!」
「俺も、もっと頑張るから。ケイミー・セイカードに似合いの男でいられるよう頑張るから。だからこれからも、お前のそばにいさせて欲しい。好きだケイミー。お前が好きだっ」
「――――うん」
誰からともなく、会場から拍手が巻き起こる。
誰だ指笛吹いてる奴は。俺はそういう奴が嫌いなんだよ。
――バカ。笑うな俺。
気絶の振りがバレるぞ。
「いや、バレてますからそれ。もう」
「……居たのか。ナタリー」
「伏せたまま喋らないでいただけますか気持ち悪い。居るでしょそりゃ。そういう契約だったんですから。つか早く終われー」
「……無粋だz――――」
〝そういう態度が不誠実だって言ってるんだよ〟
「――――、」
「常日頃から空気読まない貴方にだけは言われたくない。はぁ、ホント痛いから早く――」
「ありがとう」
「――、、――――――ぁ?」
ヤクザもかくやという声でナタリー。
こいつも額面通り、素直に受け取れないクチだな。俺とそっくりな……って、これまでの付き合いが付き合いだから致し方ないか。
「だから。ありがとう」
「二回言わなくても聞こえてますけど?。!」
「そうか? ならいい」
「…………何かあったんですか。今までとはキモさの質が違いますけど」
「別に。聞きたくも無いだろ?」
「はい」
「以上」
『――――ラヴバルーンファイトこれにて決☆着ゥ!!!!! 優勝を勝ち取ったのは、始まりから大して見向きもされていなかった(実際私も紹介するのサボってしまいましたすみませんマジで)な飛び込みカップル、ケイミー・セイカード&アトロ・バンテラスペア!!! 実技試験優勝?者をっ、愛の絆が打ち破ったァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!』
耳が割れそうな拍手。
少しだけ上げた顔の先で、二人は幸せそうに抱き合っていた。




