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「世界を越える」



 火球かきゅうが放たれる。

 魔女は憎々しげに舌打ちし、手の中に生んだ黒い光を足元の線路に放ち――全力疾走(しっそう)から急停止、高架を横っ飛びに飛び降りた。当然、俺達の体もそれに振り回される。

 やがて聞いたことのない破砕はさい音。鼓膜こまくを打ち鳴らす空気。俺達に次いで迫る音と土煙つちけむり。鉄の曲がる甲高い音、照り付ける火炎の明かり。オレンジ色だった空は急激に雲を発達させてかげり、今にも雨のしずくを落とそうとしている。

 煙の中、俺は体を引っ張られ、瓦礫がれきに囲まれた路地へと投げ入れられた。

 倒れると同時に飛び起き、ポケットの携帯電話を取り出しながら少女のシルエットに声を投げる。



「ゴホッ、ごほ……おい魔女、先生は」

「慌てるな。今治療してる」

「ち――」



 目をらすまでもなかった。

 目の前で魔女に抱かれている先生の頭から、幾筋いくすじもの赤黒い血が流れている。瓦礫が頭に当たったのか。



「せ――」

「声を立てるな。……」



 魔女が生み出した水泡すいほうが、先生の頭をすっぽりと包み込む。魔女は疲労困憊ひろうこんぱいと言った様子で息を吐き、先生をそっと地面に横たえた。



「おい、これじゃ」

窒息ちっそくしないし傷はふさがる。下手に触れるな」

「……信じるぞ」



 そうこたえ、救急への電話番号を押しながら辺りを見回した。依然いぜん土煙と瓦礫の音は断続的に続いているが、一先ひとまずあの赤髪せきはつの男が現れる気配はない。

 電話が相手とつながる。



「救急です。女性が一人、頭部打撲だぼくの出血、意識はなし。場所は八市之宮はちしのみや駅周辺高架下。高架が壊れて瓦礫が落ちてきた。駅後ろの大きなはいビルの周りです」

「…………さっきの指示といい。気味が悪いほど手際良いな」



 何かリセルが独り言を言っている気がしたが、聞こえない。用件を伝え終え、通話を切った。



「……聞きたいことは山程あるが、今はいい。この後はどうするんだ、リセル」

「悪いが、愛しの先生の完治を待ってはやれないぞ。すぐに越界魔導えっかいまどうを使う」

「エッカイマドウ?」

「説明したいが時間がない、手短に言うぞ。圭、お前にはこれから、こことは違う世界に行ってもらう」



 ――ちょっと待て。



「どういう意味だ」

「そのままの意味だ。恐らく二度とこちらには戻って来られないだろう」

「そうじゃない」

「何?」

「先生はどうなる? 俺だけが助かるっていうのか」

「お前……こんな時に何を心配して」

「何をだと? 人の命がかかってるんだぞ」

「では諸共殺される気か? ここで、得体の知れない何者かに」

「っ、魔女、お前……!」



 パシャリと、水の弾ける音。

 見ればそこには、上半身が水にれ、水滴すいてきしたたらせながらき込む先生の姿があった。



「! 先生、」

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