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「遠く、心臓をつかむ、者」

「き……!?」

「キス……って言ったね、今。司会者の人」



 マリスタは目玉をひんき、手近にあった立て看板に至近距離で目をらす。



「か、書いてある……!! メッチャ小さい字で、一番下に……!!」

「確信犯だな。ひどいイベントだ」

「公開処刑じゃんこんなの!!!! 負けてよかった!!!!」

「俺は別にどっちでもよかったけど」

「そういうこと人前で言うなパンチ!!!!」

「いて?! わ、分かったからそうポカスカやるなって」

「グルル……って、あれ?」



 はた、とマリスタが動きを止める。

 その視線の先には、ケイミー・アトロペアと対峙たいじするけいの姿。



「…………あいつ、なんでキスのこと(それ)聞いた上でまだ戦ってんだろ」

「……案外好きだったってことなんじゃない? 彼女のこと」

「――――」

「というか、いつになく壮健そうけんな――元気な魔波まはを感じるな。アマセ君ってもっとこう、鬱々(うつうつ)とした魔力をしてなかったか? 言葉が悪いけど」

「――わ、分かんないよ……病気はどうしたの? どういう展開なのよ、ケイ――――って」



 そんな、不安げに圭を見守るマリスタの横に、よろよろと歩み寄ってきた人物――シャノリアは圭の姿を視界にとらえ、苦しそうに眉をひそめた。



「しゃ、シャノリア先生? 大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃない、かな。胃に穴が空きそう。何を考えてるのかな、あの子は。命に係わる病気で……何かあってからじゃ遅いのに……!」

「そ――そうですよねっ。ザードチップ先生との話は終わったのに、あの体でどうしてまだ戦おうとしてんだろうあのバカはっ」

「助けなきゃ……」

「え?」

「何かあったら助けなきゃ。私が……」

「せ――先生?」



 どこか遠くを見るような、余裕のない表情を浮かべる先生に、マリスタは少しだけシャノリアの顔をのぞき込むように小さく体をねじる。

 シャノリアはそれにも気付かない様子で、背を向けて立つ少年に視線を送る。

 数歩後ろに立っていたトルトが片眉かたまゆをひそめ、サイファスがごくわずかに首をかしげた。



 シャノリア自身、どうしてこんなに不安であるのかわからない。



 自分の手が届かないところに、もしかすると命が危ないかもしれない人がいる。

 それが、今回に限り――どうしようもなく、彼女をいてもたってもいられない気持ちにさせるのである。



 手にすでに、用意された治癒魔法ちゆまほうの輝き。

 それが役立つかどうかさえ定かではないのに、それでも彼女は用意せざるを得なかったのだ。



(――――私は)



 いつからこんな気持ちだっただろう、とシャノリアは思い返す。

 少なくともこのイベントが始まった当初は、こんな思いつめた気持ちにはならなかったはずだ、と。



 試合開始後。

 圭とトルトが戦い始めたのち。

 パールゥが、ナタリーが、マリスタが脱落したその時。



(――――マリスタが脱落したとき)



 体とはかけ離れた意識の奥底で、彼女はキッカケを探り当てる。



 床に落ちたマリスタを見たとき?

           (違う。)



 マリスタと黒い女性との間で、まぶしい光が弾けたとき?

         (違う。)



 マリスタが戦っていた女の子が叫んで、



(――――私の心臓を、その音波で打ったとき。)




 


         (そこだ。)

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