「ブービーより、ワーストへ」
心臓を無理やり鼓動させられたかのような不快感が、彼女の体を貫いた。
自然見開かれる目。
総毛立つ体。
久しく感じなかった――感じることは無いはずだった感覚。
その感覚の残滓が、今も彼女にははっきり感じられている。
(――嘘でしょ?)
間違えようも無いその力の気配を辿り、彼女は駆けだした。
(この二十年。一度だって出会わなかったのに――――!!)
体の動きに倍するように早まる鼓動を、胸に。
◆ ◆
もう何発目ともしれないゲンコツを食らい、ココウェルはまたも尻もちをついた。
「あいだだだだッ……おまえェっ、コブになってるとこ殴りやがってこの下等な血筋がッ!!」
「はいまたヒドい悪口!!」
「ぴぎぃいいいぃいぃっっ?! ひぃ、ィ…………血、血ィでるぅぅっ……!!!」
鈍い音とともに決まった側頭、やや上へのゲンコツ。
英雄の鎧によって十分に魔力を編み込まれた一撃は、軽いジャブでも巨石のような衝撃をココウェルに与える。
指導中のマリスタも、さすがに罪悪感を抱き始めていた。
「出てないわよこんなゲンコツくらいでっ! 当たりどころ悪かったら出るかもしんないけど」
「じゃ出るんじゃねーかよそのうちにっ!! 殺人鬼!! ぜってー処刑してやるお前ッ!!」
「まーたそういう怖いことっ!」
「わぎゃんんんンんんっっ?!!?……くっそお前クソ、クソクソクソクソクソっ!!! 貧乳のクセにわたしが持ってるもの何一つ持ってねぇくせにっ!!」
「くっ……いい加減その減らず口減らせっての……!」
じんじんと痛む頭を押さえながら涙目でマリスタを睨み、まるで威嚇する犬のような目で唸り続ける、背が低くスタイルの良いブロンドの美少女。
どんな姿も絵になると内心で感心しながら、マリスタは未だに彼女が年上であるという認識を持てないでいた。
「減らず口はお前の方だろうがっ!! 誰殴ってんだって散々――」
「ダマらっしゃいクソガキ!」
「くっ……そがき!?!?!」
「クソガキじゃないのよ! 初等部のころ居たからアンタみたいな口先ばっかでてんで弱い奴!! クソガキよクソガキ!」
「ガキ呼ばわりすんじゃねえぇぇぇぇえ貧乳赤髪プレジア兵士低ランクローブ貧乳低身長ブスキモクソ臭女ァァァァア!!!」
「そうやって思いつく悪口を端から並べてしゃべってるから――クソガキに見えるんだって言ってるでしょ!」
「にゃぎぃぃいいいぃぃ?!?」
前頭を掠ったゲンコツの痛みに、泣き――もとい、鳴き叫びながら後退、俯いて殴られた箇所を両手で押さえ、撫でさするココウェル。
食い縛られた歯の間から荒い呼吸を漏らし肩を上下させる、などという色気も何もない動きをしながら、しかしその動きに合わせて豊満に過ぎる胸部がたわんたわんと自己主張する。
目に毒なその光景につい向いてしまう視線を、マリスタは務めて打ち切った。
「……はぁ。ほんと、あんたが王様じゃなくてよかった!」
「……ぁ?」




