「カメハメハ」
テインツが凄むのを見て、再び走り始める。一か所に留まるな、動き続けて――――
「遊びは終わりだと言っただろ!」
胴体を突き抜ける衝撃。――を感じた時には、蟀谷から脳を貫く更に巨大な衝撃。瞬間見えたテインツの姿勢から、二発のパンチであったことが知れた。吹き飛ぶ体を捻り、怪我をしていない右肩から地面に転がる。
「ぉ……ご、ほっ……!」
酸素が全て口から叩き出され、鳩尾を思い切り突かれた衝撃で呼吸も覚束ない。
だが――
「……ああ。やっとわかったよ。そうだよね、君みたいな魔法を使えない奴がやれる魔法的動作なんて、魔力を集めるしかないよね! うっかりしてたよ!」
水を得た魚のように活き活きと俺を貶めるテインツ。その必死さは貴族としての矜持故なのか。
ともあれ――今度は完成した。
「……よくできました。それで? そんなもの作ってどうしようっていうの?」
テインツが笑う。俺の手の中では、拳程の大きさの光――淡い水色の魔力が輝いていた。
足が震える。これまでのダメージも手伝い、それだけで最早立ってすらいられない。
「…………」
……俺は魔力を精製したままガクリと片膝を付き、項垂れてみせた。
「限界? でもそりゃあそうだよね。君は知らなかったかもしれないけど、魔法は正規の手順を踏まずに発動すると魔力を必要量の倍以上、持っていかれちゃうんだ。しかも魔法が発動する座標は解らない、威力も術の方向・範囲もコントロールできない。力押し、魔力頼みの適当な戦い方は出来ないってことさ。僕に一矢報いたつもりだったんだろうけど……君の戦い方は下の下だよ」
案の定、饒舌さを取り戻しながら、勝ち誇った声が近付いてくる。
俺は更に「くっ」と悔しそうに唸ってみせ、集まった魔力へと――――更に魔力を集中させる。
「まだ続けるのかよ……そんなことしたって無駄なんだよアマセ君。どこまで集めても魔力は魔力だ。魔法に変換することの出来る呪文を知らなくちゃ、どれだけ集めたって毛ほども役に立たないんだよ!」
――それはお前達魔法世界の住人なら、の話だ。
お前らのように、生まれたころから魔法に接してきた人間にとっては、魔力を集めたり、属性を確かめたりするのも造作もないことだろう。
〝これ砕くと手も砕けかねんですかねぇ〟
だからこそ、テインツ。お前は知り得ない。
〝凍結の深度が分からない以上、下手に砕くのは危険だと思います〟
一瞬で急激に放出、許容量を超えて圧縮された魔力が、どんな事態を引き起こすのか。
テインツの影が俺を覆う。顔が目に浮かぶな。
――そうでなくては困る。
「終わりだよ、能無しの『平民』。安心して、今……二度と義勇兵コースへは戻れないようにしてあげるからさ――――!」
失敗の賜物をくれてやろう。テインツ・オーダーガード。
魔力を全力で放出、両手の中に押し込め続け、圧力を維持しつつ――すでに手の平に断続的な痛みを与え始めている氷の魔力を――両腕を上げ、目の前のテインツへとかざす。
……はて。俺はどこかで、このポーズを見たことがある気がするな。
ああ、わかった。
何を考えてるんだかな、俺は。こんなときに。
「…………カメハメハ」




