「声、やがてのろしは上がり」
「お前さんら、あいつに何か闘争心を煽る魔法でもかけたのか? あんなボロボロで、まだ立ち上がろうとしてんじゃねぇか」
『!?』
……糞。
〝父さん。か……かぁさん。あぁぁ……〟
……体はボロボロなのに、やけに意識が鮮明だと思ったら。
俺は一度、満身創痍になったことがあるんだ。
〝……愛依ぃっ――……!!!!〟
嫌なことを思い出すもんだ。一刻も早く、意識を閉じて忘れ――――
「 」
――――――何かが、聞こえた。
「!? お、おいテインツ。あいつ立ちやがったぞ」
「馬鹿な……身体強化も無しに、あれだけ喰らっておいて」
痛みも忘れ、顔を上げて周囲を見回す。
しかしどこを見ても、この演習スペースの周りで模擬戦をやっていた連中が、恐々《こわごわ》とこちらを見てる様子しか窺えない。
……痛みによる幻聴か。いや、今のはそんな曖昧なものじゃなく――
「 」
きこえる。
聞こえやがる。
聞き違えようもない。この独特な、鈴を転がすような声。
「…………は」
魔女リセルの、声。
「はは……っ」
倒せ、だと。
見せてみろ、だと?
これだけ人を振り回しておいて――――まだ足りないっていうのか、お前は。
「――――いいだろう」
さてと。現状を確認しよう。
左肩、左腕は恐らく骨に異常がある。当てにはならない。
身体能力でも、もはや同じ生き物ではないくらいの差がある。相手には武器もある。
つまり、接近戦は絶望的。
痛み。考慮しない。
持ちうる武器。何もない。
スペックで劣る以上、真正面から競い合っても勝てる道理はない。
では、俺に出来ることは何だ?
奴に出来ないことは何だ?
〝ぶったまげるぜ、全く。『氷属性』……氷の所有属性なんざ、滅多に聞かねぇぞ〟
〝本当に珍しいことなのよ。応用五属性が創生淵源として顕れたなんて、私は聞いたことさえないもの〟
「……どういうつもりなの、それ。ねえ。アマセ君」
再び、険のある声色でテインツ。
俺は視界の中心にテインツを収め、両足でしっかりと立った。
「おいおい、早く止めろよザードチップ先生! あいつ、きっと頭がイカレやがったんだ。早く止めねぇと何するか分かんねぇぞ!」
「やっぱやるつもりなのかよ……おい、こればっかは言う通りだぞ、アマセ。お前さんもうボロボロじゃねぇか、今すぐそっから出てこい。命令だぞ、アマセ」
相変わらず気だるげなトルトの声を無視し、テインツの目を真っ直ぐに見つめ、そして思い出す。あの赤髪の男の視線を。雨の中で俺に刃を向けた男子の目を。
殺気を宿して奴を見ろ。
「……あぁ、分かるよ。僕にやられ放題やられてキレてるんだろ。器の小さい男だね、君って。感情に任せて動く最底辺の男……怖いなぁ。守るものが何もない奴ってのは後先考えずに行動するから。――僕としては殺されないように正当防衛に出て、殺される前に君を殺すしかないよね?」
テインツがひりつくような笑みを見せ、再び鉄剣を抜く。覚えのある風が演習スペースに吹き、互いの戦意を高揚させる。
…………精々見ていろ。魔女。




