「魔弾の砲手」
「〝――鎧の乙女、純潔の戦士よ。その勝鬨の残滓を我に与え給え〟――!」
テインツが俺へと手を翳す。アレがきっと、呪文というやつだろう。
魔力が練りあがり、奴の体内で渦を巻いたのが気配で知れた。
その気配は、奴の手の中で現実へと結実する。
――呪文によって生まれた拳大の琥珀色の玉が、テインツの掌で回転する。
星のような魔力の輝きを巻き込んだ玉は空気を収束させ――――
「魔弾の砲手!」
――まるでいつか映画で見た砲弾のように、俺へと放たれた。
「ッ――あァッ!!」
ふらつく体でなんとか砲弾を避ける。俺のすぐ背後に着弾した琥珀の砲弾は空気を巻き込んで爆ぜ、衝撃の余波でまたも俺は床にダイブした。肩に激痛が走る。
うつ伏せで倒れ込んだまま、俺は片手で上半身だけを起こしてテインツを視界に捉えた。
――テインツは手を下ろしていない。
「っ――!」
「それで終わりだと思わないでよ!」
呪文もなく、突如放たれる二発目。
何とか片手と両足で体を起こし、前方へ飛ぶようにして砲弾を躱す。紙一重間に合った回避により砲弾はまたも壁に命中し、俺の背後で大きな音を立てる。
呪文を唱えなくとも、魔法は使えるのか。
「魔弾の砲手は攻撃魔法の中で唯一初等部で習う、初歩も初歩の魔法だ。使う魔力は微々《びび》たるもの、けど威力も拳一発程度。拳より広い攻撃範囲だから使われてるだけの最弱魔法さ」
バレット。初歩の攻撃魔法。
魔力消費は微々。
威力は拳一発程度。
だが攻撃範囲が拳より広い。
「だからこんなふうに、いちいち呪文を完全詠唱して使うこと自体在り得ない、基礎中の基礎ってわけだ。だから、傭兵の戦いにおいて魔弾の砲手は――」
テインツの背後。彼を中心に円を描くように――――砲弾が多数現れる。
「――――!!!」
「無詠唱、そして連射が基本なのさっ!」
滞空していた琥珀が一斉に牙を剥く。
俺は体の痛みを殺して駆け、地面を蹴って前転する。
先とは比べ物にならない衝撃が背後から襲い、俺を三度吹き飛ばす。
だが弾丸は文字通り連続して放たれ続け――――転げても転げても終わらない衝撃の連鎖が、俺から方向感覚を奪っていく。
程なく、限界は訪れた。




