「嬲」
「ヘロス・ラスタングと言ったか。それ、どうすれば使えるようになるんだ。教えて欲しい」
「…………?」
テインツが、まるで未知の生物を見るような目で俺を見る。
その目はやがて再び細められ――表情が怒りを孕む。
「……ホント、ズレてる奴って始末に負えないよね。けど、そんな奴にも分け隔てなく施しを与えるのが……貴族の責務ってやつだ」
テインツが一歩踏み出す。謎の風が起こり、彼の茶髪を揺らす。
今度は、瞬時に理解した。
その体が発しているのは、魔力《殺気》だと。
「教えてあげるよ、能無しの『平民』――――命の保証がないコースに、君のような無能が所属するってことが……いかに愚かな選択だったかをね!」
言うが早いか、腰につけていた「何か」を引き抜くテインツ。
そしてそれを認識した時には、既に――茶髪は、俺へ残り数歩と迫ってきていた。
「ッ!!!」
本能的にしゃがみ、ほとんど無意識に前転する。無理な姿勢からの前転で体中の骨が鈍い痛みを訴え、視界の回転に意識は混乱する。
奴はどこだ――――
「どこを見てるんだよっ!」
「ッ!!」
左から体を捻った瞬間、股の間から――恐らく、本来は股間を狙った一撃――左の腿を思いきり蹴り上げられた。衝撃で体がテインツの身長を越えて吹き飛び、肉を完全に潰されたような衝撃が腿から爪先に抜ける。時計回りの回転を全身に感じながら、床へと叩き付けられた。
何とか起き上が――――肩に激しい衝撃と鈍痛。
「ッあッ……――――!!!」
堪らず声が出る。鎖骨と繋がる左肩の耐え難い痛みに、俺の四つん這いの姿勢は左から崩れ、手で受け身も取れず床に顎を打ち付けた。
「峰打ちだ、酷くても骨折程度だろう。むしろ感謝しろよ能無し。――これが実戦なら、今君は肩口から斬り裂かれて血塗れなはずなんだから」
「ぐ……くは……ぁッ」
骨折。確かに左肩に感じる痛みは少し体を動かすだけで激痛を訴えてくるし、肩に僅かでも負担をかけると痛みが更に増す。
骨を砕く一撃。奴は峰打ちと言った。つまり――
テインツを見上げる。勝ち誇った顔のテインツが肩に担いでいるのは鈍色に光る、紛れもない抜き身の剣。
なんて、非日常な。
あれで、俺の肩を殴り折りやがったのか――――
西洋風の片刃の曲刀を振った茶髪は、明らかな嘲笑を顔に貼り付け、俺を見下ろした。




