「作者の伝えたメッセージ」
「あ。……そう言われると、ううん。なんだろう」
リアは壁際に無造作に置かれた椅子の上で俺から目を逸らし、右手でその黒髪をいじった。
パールゥが小さく強く嘆息した。
「無責任だよリア。散々言ってたくせにそれって」
「……作者の思想に近付く、こと?」
「作者?」
答え合わせを求めるようなリアの視線。
俺が知るかよ。大体――
「これは歴史を基にした台本だろ。作者なんてのは――いるか」
「うん。歴史を基にした物語だから。きっと作者はいて、これはその作者が切り取ったシーンの連続で構成されてる」
「だが、確かこの台本の作者は――」
「……うん。作者不明。でも、太古の昔からこの国に伝わる戦記。そんなに昔の人がまとめた物語が、今なお人を魅了し続けてるって、すごいよね」
「……しょ」
「正直に言うとさ。私、全然解らないんだよね。この本の魅力が」
俺の言葉を遮り、パールゥがリアに歩み寄る。
リアは座ったまま足元に手を伸ばし、置いてあった俺の台本を手に取った。
無表情のまま、パラパラと羊皮紙本のページをめくっていく。
「すごい騎士と魔女が生まれて、神を倒すお話……人の絆が大きな力を討ち倒す、って、正直ありふれた展開、じゃない?」
「うん。それが面白いって人もいると思う」
「でも、殊更この物語のその展開が面白いとは私――あ、あんまり思えなくって。申し訳ないんだけど」
「謝ること無い。本の好き嫌いはよくあることだし」
「でも」
「でもね。この話には、もう一つ大切な要素があるの」
「『希望を失わないことの大切さ』、だろ?」
「そ――そう、それだよね、アマセ君。でも、それも別にいちいち取り上げる程の――」
「違う」
「――え?」
リアがパタンと本を閉じ。
少しだけ柔らかい顔で、俺とパールゥを見た。
「もう一つの、大切なこと。それは、今あなた達が演じたページに書いてあったことだよ」
「いや……だからそれが、希望を」
「『どんな絶望の中にいても、〝またきっと希望を持つことが出来る〟と、信じることをやめないこと』」
――リアの言葉が頭の中を流れて、抜けていく。
「希望を……信じること?」
「違う。今希望が無くても、きっとまた希望を抱けると信じること」
「…………今希望が無くても」
「か……変わらなくない? 私が今言ったことと、リアの言葉と」
「微妙に違う。ずっと言うよ。ここがミソだから」
「わ、わかんないよ微妙なとこなんて……」
〝どうかいつか、きっとまた信じて。希望の灯がまた灯ることを。絶望の中でも希望を求め続けられることを〟
……『英戦の魔女と大英雄』のこのシーンは、お世辞にも未来に希望を持てるとは言い難い場面だ。




