「超常の連続」
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単純に考えるなら。
いわゆる「強い魔法使い」になるためには、RPGでいう「魔力」を増やしたり、新しい魔法を覚えたりすればいい。
だが、それら習得には様々な段階や要素がある。流石に、経験値を稼いでレベルアップすれば、というようにはいかない。
まず魔力を増やす作業だが、これは現時点では俺には全くやり方が分からない。トルトの奴は何も教えてくれなかった。別の奴に聞くか、教本から魔力に関する記述を見つける必要がある。――――だが、こうして魔力を出し入れしていて、色々と収穫もあった。
もちろんそこに、トルトも言っていた俺の限界、そして「魔力切れ」の感覚がある。
それ以外にも――
「ッ――――」
こうして魔力を出し入れしていて、俺のどこかが軋むような痛みをあげている。敏感な場所に触れられた時のような、酷い筋肉痛の痛みのような、そんな感覚。
今俺がしていることは、魔力を出し入れすること――であれば、俺が今痛みに似た感覚を覚えている体内器官は、きっと魔力回路なのだろう。
魔力回路をしっかりと意識できたおかげで、「魔力を使う」という感覚がはっきりと解るようになってきた。
といっても、別に目新しい感覚でもなかったが。手を握り締めて、血管を潰すように手首を握り、手を開いて離すと血が手に通っていく感覚を得ることが出来るが、魔力の流れる感覚はこれに近いものがある。
一つずつ、出来ることが増えていく。
まだまだ情報も鍛錬も不足しているが、ひとまずはこの調子だ。
この作業を終えたら、次は――
不意に、ローブのフード部分を後ろから引っ張られた。
「!?」
ドサリ、と仰向けに倒れる。
見上げる視界には、テインツ・オーダーガードと――俺を引っ張り倒したらしい、大柄な男が立っていた。どちらも、ランク付けで言うと真ん中の色、ベージュローブを着ている。
『よう。「平民」』
大柄な男が、ニヤついた笑顔で何かを言ってくる。それが俺にとって快いものでないことは何となく察しがついたが、やはりまだまだ言葉は聞き取れない。
テインツがやれやれと言った様子で失笑し、大柄に話しかける。
『ビージ。言ったろ、これは言葉が解らないんだ』
『ああ、そういえばそうだった。面倒なこったな、いちいち俺達の手を煩わせる「平民」を相手にするってのはよ』
俺が体を起こす間に、二人は通訳魔法を使ったようだ。指先を淡い赤色に光らせながら、大柄が口を開いた。
「俺達貴族がわざわざ通訳魔法を使ってまで話しかけてんだ。末代まで恩に着ろよ、『平民』」
「……授業中だぞ。何の用――――」
何の前触れもなく。
気道を握り潰す衝撃が、俺の首に走った。




