「現実的非現実」
突如、火球が真上へと弾き飛ばされた。
『!!?』
打球のような速度で雲間へ消えていく溶岩の玉。呆然と空から視線を戻すと、男の横には――――ずっと探していた、薄色の髪の魔女。
赤銅を飲み込んだ空が、赤く赤く、爆ぜた。
知らず、名を呼ぶ。
あの出会いが、真実であることを確かめるように。
「リセル――――!」
「迎えに来たぞ。圭ッ!」
「む、迎えにって――――」
「生きていやがったのか、魔女ッ!!」
赤髪の男が顔を険しくし、再び手に赤銅の火を宿らせる。俺は先生を助けようと無我夢中で手を伸ばし――その手を薄色の魔女に掴まれた。
「掴まれ!」
「おい、今お――――」
内臓が重力に押し潰されたように感じた。
(――――!!?)
同時に感じる風。地面に落ちる衝撃。やたらと冷たい感触。横には同じく何が起こっているか分からない様子の先生。尻餅をついたまま見上げると、そこには昨日と同じく、ボロボロに破れたローブを申し訳程度に羽織っているリセル。
所々露出したその体は少女とは思えない肉感を持っており、俺はふと飛び込んできた暴力的なそれにぎょっとして無意識に視線を下に――
「――――な」
――冷たい感触の正体を知る。
俺達は今、高架上。先ほどまでいた場所から遥か高い、線路の上にいたのだ。
(どうやってこんなところま――)
「でッ!?」
「ボサッとするな馬鹿!」
千切れそうなほど、腕を引っ張られる。両足が地面を離れ、再び体が風を感じ始める。俺はまたも先生と同じく――魔女に腕を引っ張られて線路上を進んでいた。
まさかこの魔女、俺たち二人を連れてここまで跳躍したとでも――――
『!!?』
背後で爆音。
先生と同時に背後を振り返る。魔女の逃走にブレる視界に映る、先程まで座り込んでいた線路は炎に焼かれ、最早高架の骨組みそのものが崩壊してしまっていた。
その炎の幕を突き破るようにして、白い服の男が現れる。男は一瞬視線をさ迷わせ、線路を一直線に進む俺達を見据え――笑った。気がした。
「………………」
――理解しよう。もう疑いようもない。
人を殺すのは意外と難しい。
高架は地震でもない限り壊れない。
命を狙われて追われる、なんてことは、創作の物語の中でしか起こらない。
――そんな「現実」は、存在しないんだ。
人は一瞬で殺せる。
高架なぞやろうと思えば即座に破壊できる。
俺達はまさに今、命を狙われている。
俺の思う「常識」など、魔法を扱う者にとっては「非常識」でしかない……!
「ジリ貧だな……」
魔女の苛立ちと焦りが聞こえる。
……目を閉じて深く呼吸し、熱を持つ鼓動を少しずつ、少しずつ鎮めさせる。
……目を開ける。手の中に火球を発生させている白い服の男を――敵を、見据える。
「魔女。また攻撃が来るぞ」
「解ってる! 黙っていろ今集中して――」
「あいつはお前と違って、俺達を目で探してた」
「――何だと?」
はっきりと、魔女の意識が俺に向いた。
「奴の視界から消えれば、隠れられる」