「Interlude―4」
「ナイセストさん!」
「お待ちしてました!」
グリーンローブの少年少女たちが、羨望のまなざしで演習スペースを譲る。
そこに入ったホワイトローブのナイセスト・ティアルバーと、グレーローブのロハザー・ハイエイト、ヴィエルナ・キース。彼らは腕につけた、魚を捕らえる熊のエンブレムが刺繍されている腕章を外し、軽い準備運動を始めた。
「ったく、マジで空気読めねぇよな。あのザードチップとかいう教員」
「ロハザー。私達は生徒の模範」
「わぁーってるよ。『ザードチップセンセイ』。ケッ、ちょっと強ええからって調子に乗りやがって」
「どっちが」
「だぁっ! お前はどっちの味方なんだよヴィエルナっ」
「どっちも」
「あいつは誰だ?」
ナイセストの言葉に、二人がぴたりと会話を止める。
ナイセストの言う「あいつ」が誰なのか、二人には分かりかねたからだ。
「あいつって……誰?」
「……もしかして。ザードチップ、先生の。横にいた、男子?」
「見たことがない。転入か」
「ああ! 確かにひとつ、風紀委員会の機密文書類に生徒情報が追加されて……確かケイ・アマセっつったっけ?」
ロハザーが、今朝方風紀委員室に届いていた書類を思い出しながら言う。
「外国人?」
ヴィエルナが腕のストレッチをしながら訊ね、先ほど見た圭の姿を探す。彼女は程なくして、地面に座り込んでいる圭を捉えた。
圭は地面に座り込み、ただひたすらに、魔石玉の中の水色の光を吸収し続けている。
圭がリシディアにやって来た経緯を知らないヴィエルナは、彼の行為に何の意味も見いだせなかったが――水色の光を見て、彼の所有属性は氷なのだ、と、心の中で少しだけ驚いた。
少なくとも彼女にとって、氷の所有属性の持ち主に出会うなど初めてのことである。
しかしロハザーは気付かず、ナイセストは気付いた上で何の興味も示さなかった。
「さあ? 知らね。アマセ家なんて聞いたこともねぇから、きっと貴族じゃねぇんだろ。だったらただの『平民』だ、ンなその他大勢どうでもいいや」
「ロハザー、軽視」
「うっせーカタコト女」
「む。傷ついた」
「いてててっ、いて、いてぇって! 不当な暴力は規律違反だぞ!」
「精神的苦痛は人間違反」
「……貴族ではない、か」
騒ぐ二人を置き、ナイセストが目を閉じる。それは彼にとっていつもの精神統一の作業であったが、今回はその静かな作業に、一つの思考が過っていた。
(ケイ・アマセ……随分と渇いた目をした男だ)
それきり興味は完全に失せ、ナイセストは自らの鍛錬に没していった。




