「無能力者の魔法訓練」
「今日はひたすら、一対一で模擬戦をやってもらう。各々手合わせ相手を見つけて三分ずつ模擬戦闘、終わったら相手を変えて繰り返し、時間いっぱいまで。基本的に休憩はこちらから指示しない、必要だと思ったり、相手が見つからなかった可哀想な奴から休め。以上、始めろ」
投げっぱなしに聞こえる指示もいつものことなのか、早々に相手を見つけて散り散りになっていく生徒達。俺は当然のようにあぶれ、その場にトルトと二人になった。
「……いやいや。何かしら動けよ、お前さんも」
「動くも何も、俺は模擬戦が出来るような段階じゃないんだろ、多分。今日は見取り稽古でもするよ」
「見取り稽古ぉ? お前さんよくそんな言葉知ってんな、記憶ねーんだろ」
「本の知識だ。傭兵の戦いがどういうものなのか、ある程度調べたんだ。ただの知ったかぶりだよ」
「自分で言うなよ……ま、お前さんがあぶれるのは想定済みだったがよ。ホレ」
「?」
トルトが投げたものを受け取ると、またも手のひらサイズの硝子玉。
またかよ。
「……いい趣味してるんだな」
「皮肉んなクソガキ。誰が趣味だよ、こっちは仕事してんだぞ。ったく……そいつはこないだの検査用の玉と違って、魔力を可視化するだけじゃなしに、貯蔵することも出来る魔石玉だ。何個も持ってきてるから、お前さんはこいつにひたすら魔力込めてろ」
「……込めているだけでいいのか? 意味は?」
「自分で解んねぇ奴にゃ言いたくないね。込めてりゃ分かる、さっさとやれ」
小さな魔石玉がいくつも入った袋を、コンクリートがむき出しの床にガシャリと置き、トルトは心底面倒臭そうに去っていった。俺は部屋の隅に腰かけて仕方なく魔石玉を握り、体内の魔力回路を意識して――魔力を手に集める。
一度馴れてしまうと案外早いものだ。間もなく、俺の淡い水色の魔力が魔石玉の中で光りだし、微かに凍気を帯びる。魔力の放出を止めても、検査の時のように魔力の光は消えず、玉の中で光り続けている。
これを繰り返していけばいいんだな。
魔石玉を握る。魔力回路を意識する。魔力を込める。
握る。意識する。込める。
握る。意識する。込める。……
最初は何の変化も起きず、ただ漫然と時間が過ぎていった。だが……
「――は。はっ、はっ、はァ――っ、」




