「義勇兵コース、始動」
「……何呆けてるんだ。そんなに変なことを言ったか、俺は」
「い、いや……へへへ。なんか意外でさ。ありがとう、励ましてくれて」
「気休めじゃない。事実を言っただけだと言ったろう。……まあ、伸びなければならないのは、俺も同じだけどな」
「同じ?」
「ああ。一分一秒も惜しいよ」
食堂の梁に設置された時計を確認し、空の食器がのったトレイを持って立ち上がる。
まだ食事を残していたマリスタが慌てて声をかけてきた。
「えっもう行くの!? 私も……」
「やることがあるんだ。また三時間目にな」
「ちょっ――」
人混みを進むと、やがてマリスタの声も聞こえなくなる。
目指す先は自室。早くあの歴史書の続きを読んでしまわなくては。
◆ ◆
「ほ、ホントに行ってしまった……うーむ。天才の思考は常人と違う、というけど。なんだかなぁ」
◆ ◆
午前二時間、午後は三時間の授業が設けられている。ここからはコースごとに受ける科目のレベルが違っており、皆ローブの色で分かれて行動する。
しかし今日は、ローブ別の授業は予定されていないらしい。
「魔術師コースの子たちは次の教室へ。義勇兵コースのみんなは訓練施設へ移動して」
シャノリアの声で、クラスメイト達ががやがやと移動を開始する。
俺が近寄る前に、シャノリアが声をかけてきてくれた。
「さ。あなたも義勇兵コースになっているから……あっちの子たちについていって」
「訓練施設も階層が分かれてるよな。時間割通り、今回は第二十三層でいいのか?」
「ええ。……義勇兵コースの演習授業は、ローブの色によるクラス分けはないわ。今回は担当がザードチップ先生だから、色々と取り計らってくれるとは思う……たぶん」
「……自信なさそうだな」
「うふ。……って、冗談はさておいて。一度、しっかり見てくるといいわ。自分が志望したコースに、どんな人たちが所属しているのか」
声のトーンを落としてそう言うと、シャノリアは魔術師コースの生徒達と共に去っていった。俺はセントラルエントランスへと続く転移魔法陣に乗る。
様々な色のローブと、よく分からない言葉で溢れる人波に流されながら――通訳魔法を使っていなければ、まだ言葉は全く解らない――魔法陣を乗り継ぎ、プレジア第二十三階層、「訓練施設」へと辿り着いた。
そこには、一メートルほどの壁で円状に囲まれた、十メートル四方のスペースが数多くある。壁にはそれぞれ魔石がいくつか埋め込まれていて、「使用中」――つまり、そのスペース内で魔法や戦闘の訓練が行われる間――になると、魔石を起点として物理・魔法障壁が発動、スペース外部には被害が届かなくなる。この中で、義勇兵コースの傭兵候補生達は己の技を磨き合う、というわけだ。
見れば、全員がローブの下は動きやすい、ジャージのような素材のものを着ている。それでもローブを脱がないのは――プレジアが抱える傭兵集団「アルクス」の標準装備が、魔法・物理攻撃に耐えうる特製のローブだかららしい。
皆に紛れ、見よう見まねで準備運動などをしていると、入学検査以来、一度も見なかった寝ぼけ眼――教師の証である黒ローブを着たトルト・ザードチップが現れた。義勇兵コースの教師をするということは……やはり、戦闘に特化した教師なのか?




