「ケイ・アマセ②」
俺が何を言っているのか、どうやら本当に解っていない様子のマリスタ。そんなしかめっ面でさえ、見る人の心を惹き付ける魅力を放っている。
その上、四大貴族のアルテアス家。つまり、魔法の分野においても並々ならぬ才能を持って生まれた存在であるということだ。
つまりそれは望み、行動すれば――こいつのスペックをもってすれば、瞬く間にレッドローブから脱し、頂点に至ることだって可能なのではないか、ということ。
容姿、才能、財力。全てを彼女は兼ね備えている。魔法の「ま」の字も知らない俺とは大違い――テインツに言われるまでもなく、俺からすれば雲の上の存在――な、はずなのだ。
……まあ、それでも幸せな日々は送れているようだし、こいつには取り立てて言う必要もないのかもしれない。しなくていい努力なら、無理をする必要もない。
「にしてもケイ。あなた、本当に記憶をなくしてるの?」
「……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「いや、だってさぁ。もぐ。おぐっ……っんぐっ?!?」
大きなパンの塊をごぶりと口に詰め込んで、案の定目の前で胸をドンドンと叩き始めたマリスタ。なんてベタな。
水差しを手に取り、マリスタのコップに水を注ぐと、ものすごい表情をしたマリスタがそれを一気に飲み干し、一呼吸おいて大きく息を吐き出した。
「はぁっ、はー、はー……ハハ……助かったわ、ケイ」
「……いや、いいよ」
「あーっ、まァたそうやって人のことを可哀想な目で見るーっ」
可哀想どころではない。もはや憐憫である。
が、そんなことを言ったところで詮方ない。
「で? 俺の記憶喪失を疑ったのはどうしてだ」
「あ、そうそう。ケイさあ、なんで勉強できるの? 午前中の二つの授業、特に歴史なんてすっごくスラスラ答えてたじゃん」
「勉強したんだよ。時間割も出てるんだ、予習くらい出来る」
「げーっ、予習?! うわ、私生まれてから一回もやったことないよ!!」
「大袈裟な……」
「いやでもさぁ、予習したからってあんなスラスラ答えたり質問したり、出来るもんかなぁ? 実はちょっと思い出してるんじゃない?」
「さっぱりだ」
「…………」
ジト、とマリスタが、疑いとは違う種類の目線を投げてくる。
スープを飲み干し、その目を見返した。マリスタが少したじろぐ。
「何か言いたいことがありそうだな」
「べ、べつにぃ。ただ、ケイは天才なんだなって」
「……天才?」
「うん、天才。ちょっと授業の範囲を予習しただけで、あそこまで立派に質問に答えたり質問したり、私には絶対できないもん。いやぁ~羨ましいですなぁ。私みたいなバカとは大違いだよー」
……ヘラヘラと笑いながらマリスタ。
「……馬鹿なのは知ってたよ」
「うーわ、なによそれぇっ」
「いいじゃないか。現時点で馬鹿だってことは、まだまだ伸びしろだらけってことだろ」
「え」




