「ケイ・アマセ①」
「あ、いやその。深い意味は全然ないんだけど……アマセ君、リシディアに越してきたばかりだって紹介されてたじゃない? なんでマリスタと知り合いなのかなって」
「ふふふ……ごめんねパールゥ。それは言えないのさっ」
「たまたまだよ。ディノバーツ先生を頼ってリシディアに来た時、彼女も先生の所にいて」
「言わないでよっ?!? 私の優越感返して!!」
もう少し欲望をオブラートに包むなりなんなりしろよ。丸出しかお前。
「そ……そうなんだ。アマセ君が最初から知り合いだったのは、ディノバーツ先生なんだね」
「知り合いというか、家同士の古い繋がり……らしい。俺も詳しいことは知らないんだ」
「それじゃあ……アマセ君は、実は名家のお坊ちゃまだったりするの?」
そう言って現れたのは藍色の髪を持つシスティーナだ。女生徒達が目をまん丸にし、こぞってこちらを見る。俺は苦笑いして頬をかいてみせた。
その仕草だけで、システィーナは俺が何を言わんとしているかを察したらしい。彼女はハッとして口を片手で覆った。
「あ、ごめん。家柄のこととかは聞かないで欲しいんだったよね」
「いや、分かってくれたならいいんだ。気を遣わせてしまってすまない、システィーナ」
「あ、名前で……ううん。大丈夫」
どこかポカンとした顔でこちらを見た後、取り繕うようにシスティーナが言う。その表情の理由を聞こうとしたところで、始業のベルが鳴り、集まりはお開きとなる。
その後の休み時間も凡そそのようにして潰れていき、業を煮やしたマリスタが昼休みに俺を食堂へと半ば強引に連れ出し――このときばかりは、連れ出し「てくれたおかげで」――、質問攻めから脱出出来たのだった。
◆ ◆
「ったくもう、あのミーハー共ときたら! ケイがイケメンだからって食いつきすぎなのよ!」
「……お前は違うのか?」
「だから何なのサあんたもそのよゆーはっ?!」
バン、と机を叩くマリスタ。味の薄いパンに豆類の入った豚骨風味のスープ、牛乳、そして見たことがない色をした果物の盛り合わせ、という昼食の入ったトレイが机上で跳ねる。行儀が悪い。
「大体、ケイもケイなんだからね! なんなのあの自己紹介! ネコ何匹かぶってんのさ!」
「スープ冷めるぞ」
「それはいけないわずずず……じゃなくて! ごまかさないで!」
「別に誤魔化してる訳じゃない、事実を言ってるだけだ。確かにスープは冷めてしまうし、有り体に言って俺はモテる。それを最大限利用するのは当然だろう」
「自分で言ったよこの人!!!!」
「自分のスペックを自分でしっかり測れてるのは大事だと思うがな……お前のように損をしない為にも」
「わ、私が損??」




