「無限の内乱」
「二十年前――このクラスは現役生ばかりだから……お前らが生まれる数年前だな。それまでも魔女の一族と人間の対立はあったが、この時からは様子が一変したわけだ。『無限の内乱』と呼ばれる大乱……お前らの理解を確かめたい。誰かこの内乱を、自分の口から説明できる奴はいるか?」
明らかに教師でなく土木作業員が似合いそうな気配を全身から漂わせる歴史教師、ファレンガス・ケネディがぐるりと教室を見回す。が、誰も手を上げる気配がない……こういうところは、万国共通の風景なんだろうか。
(ケイ、ケイっ)
通路を挟んでいるというのに、マリスタがぐぐぐと体を伸ばして俺に話しかけてくる。あの目がキラキラした顔。何度も見たことがある表情だ。何か教えたいことがあるんだろう――というか、キツいだろその姿勢は。体が震えてるぞ。
(あのね、今はね、近代史の勉強をしてんだけどね、)
そんなことは歯牙にもかけない様子で、マリスタは一生懸命身を乗り出して話しかけてくる。これがファレンガス教諭にバレないのは、俺達の席が教室の端にあり、教師からは比較的見えにくくなっているからだろうか。それともこいつが見放されているだけだろうか。
(教科書のページはね、)
(……わざわざ言ってくれなくて大丈夫だ。もう解ってるから)
(は?)
手を挙げる。ケネディが「ほお?」と意外そうな声を出した。教室中の目が俺に集中するが――そんな些事より、大切なことがある。
リシディアの歴史書。この記述によるなら、あいつは。
「無限の内乱は、それまでも続いていた魔女と人間の小競り合いが激化したものです。引き金になったのは……魔女の国『マギア』の女王、タビア・メザーコードによる、リシディア王国第一王女、レイーダ・フォル・リシディア様の、両国の和平条約を結ぶ場での暗殺。これにより和平交渉は決裂、両国はこれまで経験したことのない未曽有の大乱状態となった……これを機に人間は、魔女の大量粛清である魔女狩りを行い、魔女らは国外に残らず追放され、もはや一人もリシディアに存在しない。魔女を殲滅し尽くす形で、無限の内乱は終結した……いや、ひとまず息をひそめた」
「……驚いたな、転校生。綺麗に説明してくれたな、その通りだ。……ええと、アマセ。だったか」
ファレンガスが名簿と俺を交互に見ながら告げる。クラスメイト達から向けられる目がまた大きく変わった気がした。マリスタが絶句しているのが分かる。
「お前は何か、この内乱に対して思うところがあるか? 俺はそれを聞いてみたいんだ」




