「張り詰める」
シャノリアの声を遮る声。聞き覚えがあったその声の主、先日俺を平民だなんだと面倒に巻き込んだ茶髪の少年――テインツ・オーダーガード。
先日一悶着したんだ、もうあいつの方から関わってくることはないと思っていたんだが――考えてみれば、俺はあの時、奴に格好の獲物として認識されただけだったんだろう。
俺が目を合わせると、テインツはこの上なく楽しそうに笑った。
「ごめん、的外れな質問だった? 君はリシディアどころか、魔法自体も始めてなんだよね。そりゃあ魔術師コースだよね」
見れば、テインツの周囲にも嫌な笑顔を浮かべてこちらを見ている者達がいる。あの見るからに居丈高な佇まい。きっと貴族だろう。
……どういう展開を期待しているかは明白だったが。俺の興味を引いたのはむしろ、今の状況に対する他の生徒達の反応だった。
もちろん、迷惑そうにしている生徒はいる。だが、大勢の顔にはどこか――気後れのようなものを感じるのだ。テインツらを、そう――恐れてでもいるような。
「あれ? どうしてそこで黙るのかな? そんなに答えにくい質問だった?」
「先日は世話になったね。ありがとう、テインツ。もちろんあの時言ったように、義勇兵コースに所属してるよ」
ざわ、と。
誰の目にも明らかなほど、教室中が騒めいた。
テインツが肩をすくめて周りに視線を投げ、取り巻きが人目を気にする様子もなくせせら笑う。
「そっか。僕の助言をまっすぐ受け止めてくれたんだね、アマセ君は。……僕も義勇兵コースなんだ。『平民』に施しをするのは貴族の責務。何か分からないことがあったらいつでも聞くと良い。これからよろしくね」
「ああ。胸を借りるつもりでいるよ。よろしく――――お話を遮ってすみません、ディノバーツ先生。続けていただいて結構です」
「……ええ。テインツ君も、余り勝手なことをしないでちょうだいね」
大貴族のシャノリアにそう指摘され、一瞬顔を険しくしたが――テインツは、やがて一言謝罪をして席に着く。
太く高い鐘の音が聞こえる。
もう何度か聞いた、始業のベルだった。
◆ ◆
リシディア王国は、やはりアメリカではなかった(半分本気で疑っていた自分に笑ってしまう)。三方を国、一方を山脈に囲まれた内陸国で、俺も利用した転移魔石などの魔石産業が盛んな、そう大きくはない王国だ。
それも、これまでの戦争で他国に領土を削られてきたせいのよう。
北の大国アッカス帝国、西の軍事国家バジラノ。友好的な関係が築けているのは、シャノリアの話にもいつか出てきた東国のタオだけであり、他二国とは不可侵条約を結んでから二十年、まともな国交が築けていない状態だ。
二十年。この数字が、ことリシディアではキーワードとなる。
というのも――




