「そして再会。」
俺の視界に、真っ白な服を着た長身の赤髪が飛び込んできたのは。
『!?』
圧に、俺と担任が同時に目を見開く。その驚きは、ただ急に声をかけられたことから来たのではない。
現れた。
歩いてきたのでも、走ってきたのでもない。瞬きの間に――目の前の男は文字通り、俺の視界に一瞬にして姿を現したのだ。
驚愕に数歩遅れ、ようやく担任が背後を振り向いて俺へと後退る。それを見てようやく、俺は呼吸を忘れていることに気付き――――思い出したように噴き出した汗が、全身の毛穴を貫くのを感じた。
火山の様に逆立つ赤い髪。白い学生服とでも表現するべき服を纏い、両耳には赤いピアス。
その痩躯の男が、何者かは解らない。面識もなければ、見覚えもない。
そんな、全く記憶にない相手に――――俺は、これまで感じたことのない恐怖を募らせていた。
本能的に走る心臓。荒れ狂う呼吸。総毛立つという感覚。
それが「殺意」という感覚であることを知ったのは――――すべてが終わってしまった後になる。
『なんとか言えよオイ。って……そうか』
燃えるような赤い髪を揺らす男は、失笑気味にニヤリと笑うと右手を少し上げ、色素の薄い人差し指の先を光らせる。
「――こうしねぇと通じるわけねぇか。なんせ世界が違うんだからよ」
「だ――誰なの? あなたは……!」
先に口を開いたのは担任だった。意識は彼女を止めるべきだと警鐘を鳴らすが、俺の足は金縛りにでもあったかのように硬直し、微動だにしない。質問に答えず、打って変わった無表情で自分を見つめる赤髪の男に、担任はあろうことか――――ゆっくりと両手を広げ、俺を守るように立った。
「……あ? どういうつもりだ、そりゃ」
――家族が、オレンジ色の中に消えていく。
「――――――ッ」
そうだ。あのときも俺は、こうして。
「……この子は、私が守る。い、命に、代えても……っ」
「――ほう。徒手の人間が死に際に取る行動としては大層なもんじゃねえか。どんな腑抜けた世界にも気骨のある奴ってのはいるもんだ、嫌いじゃねぇぜそういうの。だが――」
赤い男が手を翳す。その掌の中に燭光のような輝きが現れたかと思うと、それは眼前でみるみる人間の顔大の大きさに膨れ上がり、数歩離れていても肌がひりつくほどの熱を放ち始める。空気を吹き込み始めたばかりの風鈴の如く、赤銅に輝く溶岩の玉が死の気配を纏ってひりつき、背を向ける先生に向けられている。
「――惜しむらくは、今回ばかりはそれが蛮勇だったってことだ」
「――――っ!!!」
…………待て。
〝あんな白昼堂々、一切目撃証言のない火災事故なんか起こるワケがない!――そうだな、きっと誰かが魔法でも使ったんだろうな!〟
炎が、人の手から、何の道具も無しに現れる。
それは文字通り、マホウだ。
そんなものが、本当に存在するのだとしたら、
「……まさか、」
あの爆発は。
俺の家族は。
「残念だが、ただ不運だったな、女。巻き添えだが死んでくれ」
――――――――――ふざけろ。
(……動け。)
マホウなんてもんが、本当に存在して、
(動け。)
ゲームよろしく人を殺す為に使われていて、俺が狙われていて、
「安心しな、誰も悲しませることはねぇ。影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!」
(……動けッッ!!!)
そんな非現実的なもので巻き添えを食って――――取り残される家族が、いるなんて。
「ッ!? 圭君ッ!!」
無我夢中で先生を押しのけ、前に出る。
圧倒的な熱波が体に押し寄せ、溶岩の球体が目の前に迫り、男は至って平静な顔でその火球を――――
「私の男に手を出さないでもらおうか。『人魔』」