「Interlude―3」
「貸出冊数ギリギリ、ってことは、二十冊近い本を借りていったってことでしょ? 貸し出しの期限は二週間だし……何かこう、研究でもしてるのかな。本はそのための参考資料とか」
「それにしては、借りていった本が『浅く広く』すぎる気もするよね……ジャンルも全然違う本だし。特に、リシディア語の初級テキストなんて……」
「外国人なのよ、あいつ。顔見たらわかったでしょ」
「は……はっきりとは、覚えてなかったから」
「ま、とにかく。その男の子が転校生なのはホントよ。そしてその男子の世話は、シャノリア先生からワタシが全部任されてるのよ!」
(誇らしげ……)
「ど、どうしてマリスタが?」
「ふふふ……色々と人に言えない事情があってね!」
(すごく言いたそう……)
「ほらそこシスティ! またそういう目で私を見る! そんな目で転校生を見たら、逆にジロリと睨み返されちゃうんだからね!」
「え、ええ? 睨み返して……くるの?」
パールゥがこわごわと訊ねる。マリスタが大袈裟に頷いた。
「そうよ。ホントにもンのすごぉ~く気難しくて無愛想な奴だから。フツーに話しかけても『ナンノヨウダ!』とか『オレニカマウナ!』とか、まー突っぱねられる突っぱねられる」
「えええ……?!」
(盛ってるわね、話……いちいち大袈裟だからなぁ、マリスタは)
まるで眉唾物なお化けの話をするようにマリスタが語っているところに。
扉が開き、眼鏡を掛けたシャノリアが入ってきた。
「おはよう、みんな!」
揃わない挨拶もそこそこにシャノリアが教卓へと辿り着く。後ろに行くほど席の位置が高くなる、勾配構造の教室を一望したシャノリアは、生徒たちを眺めて微笑んだ。
男子生徒の一部からはどこか、感嘆にも近いため息が聞こえる。マリスタは顔をしかめ、その目はシャノリアの肢体へジトーっと流れる。
腰まで伸びた光るブロンドの髪。ほどよい身長とあどけない顔立ち、そして何より、相手の心の壁を解きほぐしすぎて越えてはいけない最後の一枚さえ溶かしてしまいかねない柔和な笑顔と、温かな佇まい。
その上、実力は現役の傭兵にも匹敵するとくれば――――密かにシャノリア・ディノバーツファンクラブが結成されているのも、無理からぬことである。
お前たちは単純すぎる。と、常々マリスタは思っていた。
(――って、私も人のこと、言えないけど。いや、だってさ? 実際ケイのルックスすごくない? 整いすぎじゃないアレ? 先生んちで顔覗き込んだ時死ぬかと思ったし私。高嶺の花、ただし標高一キロ、って感じじゃない?? は? むり)
「新しい一年が始まったばかりだけど、みんなに転校生を紹介します。彼はとある小国から家庭の事情でやってきた外国人で、この国の言葉を知らないし、魔法のことも一切知らないわ。どうか親切にしてあげてね――それじゃあ。みんな、悪いんだけど通訳魔法を準備してくれる?」
シャノリアの言葉に、マリスタがガバッと机から体を起こし、期待の面持ちで通訳魔法――――壁の崩壊を発動する。
「壁の崩壊っ」
ここに至り、マリスタの不安は期待に変わってきていた。
あれだけクールな態度をとり続けた美少年が、一体どんな自己紹介をかましてくるのか、どんな顔で挨拶をするのかと――――
「………………ダレ????」




