「火の粉をはらう力のために」
リシディアで一人で生きるには、きっとその、つまり――タタカウチカラ、が必要になる。
傭兵となる人間が集まるコースだ。そこで研鑽を積めば、俺も……ツヨクナル、ことが出来るだろう。
戦う。強くなる。こんな言葉を大真面目に使う日が来ようとは。
「転属の申請に行くよ。今日はありがとう、マリスタ」
「ちょっ……ケイ!? ケイったら!!」
「あんたも。教えてくれて助かったよ、オーダーガード。また会ったときはよろしく頼む」
「――――――――」
マリスタの声も、テインツの気配も無視し、第四階層――職員室のある区画へ行く転移魔法陣に乗り――足から魔法陣へ、魔力を流し込む。
「!? ケイ、もう魔法陣が使えるように――――っ」
白いベールに包まれ、職員室の区画にたどり着く。
マリスタの制止を振り切り、淡々と職員室の引き戸をノックして、開く。一礼し、俺が辺りを見回す前に、シャノリアは俺へと近付いてきてくれた。
「どうしたのケイ、何か質問が――――どうしたの、マリスタ」
マリスタのただならぬ気配を察したシャノリアが声をひそめ、俺達を廊下側へ促す。
俺はマリスタに激しく肩を掴まれ、無理矢理振り向かされた。
「ちょっと――ねぇ。待とうよ、ケイ。落ち着いて? 前も言ったけど義勇兵コースは――」
「命の保証がないコースだって言うんだろ。承知の上だ」
「何言ってんの――何言ってんのさケイってば! 面白くないってその冗談」
「俺は貴族じゃない、魔法もゼロからのスタートだ。あいつの言ってたことは的を得ている――力のない俺がこの世界で生き抜くために、多少の力は必要だ」
「で、でも、来たばかりで何も兵士を目指さなくても」
「何も傭兵を目指すわけじゃない。義勇兵コースの中で、これからプレジアの外で降りかかるかもしれない火の粉を払う力を手に入れたいだけだ」
「……ちょっと待って、ケイ。義勇兵コースですって?」
「手に入れられっこない、外になんか出られない! ぜっったいに死んじゃうよ!」
その切迫した表情から、マリスタの必死さが伝わる。
肩が揺さぶられ、視界が揺れる。興奮したマリスタをシャノリアが抑え、俺の目を見た。
「……いい、ケイ? 義勇兵コースは、魔法が使える人だって、あまり所属したがらないコースなの。本物の武器での練習もする、試験で犯罪者と戦うことだってある。試験で死んだ子の話だってたくさんあるわ。何があったのか知らないけど……考え直したほうが良いと思うわ。ううん、考え直しなさい」
「ねえお願い、ケイ。やめよう、ねえ。悪いこと言わないからっ」
縋るように俺の目を覗き込んでくるマリスタ。
というか……なんだってこいつは、会って間もない俺にそう食い下がってくるのか。
〝……この子は、私が守る。い、命に、代えても……っ〟
……いや。そんなものか。
担任も俺が命を狙われた時、身を挺して守っていた。
友人を、教え子を危険から遠ざけたいと思うのは、普通のことだろう。
〝将来のこと、まじめに考えてるの?〟
俺の将来は、消えてなくなってしまった。
だが魔女を探す中で、降りかかる火の粉を払う力が必要になる可能性があるというなら……そういった世界を知っておくのも、決して無駄にはならないはずだ。
「先生! ケイは、テインツって言う男の子に挑発されて、ただ勢いで言ってるだけで――」
「……勢いで決めつけて話してるのはどっちだ。俺は至って冷静だよ」
「い、いや、でも、だから……」
「……シャノリア。義勇兵コースは、入るのに何か条件があるのか」
「いいえ。君は入学の検査を終えてるから、どちらを選ぶのも自由よ」
「途中での転属にリスクは?」
「転属は、一度だけ認められているわ。命を扱うコースだもの、そう簡単に行き来されたら困るからね……じゃあ、それでいいのね?」
「先生!」
マリスタが声を上げるが、シャノリアは俺から目を逸らさず息を吐き、やがて目を閉じた。
「…………解ったわ。ただ覚えておいて。義勇兵コースに所属する人って言うのは、皆魔法が使えることなんて当たり前な環境で育った人ばかりよ。戦闘訓練では、魔法の使用を前提とした授業が行われる……覚悟の上ね?」
「勿論だ。転属の件、よろしく頼む」
「確かに受けました。それじゃあ、また何かあれば連絡するわね。――ああ、それと。コースを移ったからといってクラスまで変わることはないから安心して。あなたの担任は私よ」
「ああ、わかった。それじゃあ」
シャノリアが職員室へと戻っていく。俺がマリスタに背を向けてその場を去ろうとすると、マリスタの声が聞こえた。
「……絶対死なないでよ。ケイ」
静かな廊下から転移し、騒がしいエントランスに出る。更に魔法陣を乗り継いで、ドアの並んだ無機質な空間に出た。
短く深呼吸し、自分の部屋へと歩き出す。
初登校は、二日後。
……小さく小さく、体の疼く音がした。




