「『平民』」
『その人、知り合い? アルテアスさんが、見かけたことがない人と歩いてたものだから気になって。ご家族の人とか?』
「ううん、違うよ? 彼は――えっと、そう、外国からの転入生なの。まだリシディア語も話せなくて。私が色々、お世話することになったの」
『……そうなんだ。アルテアスさんが直々に世話をするなんて――――もしかして、外国の名家の人とか?』
「あー……あのね、テインツ君」
あくまでにこやかな少年に対し、なんとも居心地の悪そうな表情で頬をかくマリスタ。マリスタの言葉しか聞き取れないが……俺のことを話しているのは分かる。そして、マリスタが何やら嫌そうにしていることも。
「マリスタ。彼に通訳魔法を使うように言ってくれないか。俺のことは俺が話すよ」
苦笑いで会話を続けようとしたマリスタを手で制し、そう言ってテインツとやらの目を見た。その表情はマリスタと話していた時とは打って変わって無表情になる。マリスタの求めに応じ、テインツは指を光らせた。
「……初めまして。僕はテインツ・オーダーガード。君は?」
「初めまして。ケイ・アマセという。以後よろしく頼――――」
「アマセ……聞いたことない名前だね。アルテアスさんとは親しいの?」
………………。
「……いや。つい先日知り合ったばかりだ、マリスタとは」
少年の目尻が僅かに吊り上がった。
ああ。
そういうことか、こいつ。
だとしたら、とんだお門違いだ。
「ふーん、そうなんだ。もしかして君、義勇兵コースだったりする?」
「? いや、魔術師コースだが……どうしてそんなことを訊くんだ?」
「へぇ……とりたてて強いわけでもなくて、通訳魔法も使えないくらい魔法に疎い……何の力もないのか、君。だったらもっと感謝したほうが良いよ。アルテアスさんに」
「感謝?」
「リシディアに来て間もないみたいだけど、アマセ君さ――彼女がどういう人だか分かってる? リシディアには」
「四大貴族とかいう力のある一族がいて、マリスタはその家の人間、と言いたいなら、本人から聞いて知っている」
「いいや、君は何も解ってないね。もし本当に解ってるなら……知り合って間もない四大貴族を気安く呼び捨てなんて、出来るはずがない」
「名前の呼び方が気安いかどうかなんて、当人間の匙加減だと思うがな。気になっているようなら本人から言ってくるだろうし、そんな気配がしたら俺からも配慮するさ。少なくとも、俺と知り合ってもないあんたから言われる筋合いは……一切、ないだろ? 申し訳ないけど、そうじゃないか」
こういう話はつくづく苦手だ。言葉を慎重に選ぶなんて作業は、人生で最も徒労だと思う。
勤めて険がなく、上から目線でない言葉を選んだつもりだったが――
「誰に物を言ってるか解ってるのか。他国から来た『平民』の分際でさ」




