「白紙」
〝将来のこと、まじめに考えてるの?〟
――急に、この世界での生活に現実味が増したような気がした。
一年後。俺はこの世界で、一体どんな魔法使いになっているだろう。
先行きは、これまでずっと白紙だった。
……否。今も白紙なのには違いない。
そう確信を持たなければならないからこそ――
〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
――一刻も早く、この世界で生きる最低限の力をつけ、魔女を探し、問いたださなければならない。
「なぜ、俺だったのか」と。
「自分の適性を知る、なんて言うけどさ。所有属性じゃあるまいし、そうそう適性なんて分かんないよねー。なはは、私の適正ってなんなのかしら、って感じ」
「そうだな」
「でも、家を継ぐってのも全然想像できないし、ていうかしたくないし。商売とか経営とか、聞いても全然分かんないし」
「商売……アルテアス家がやっているのか?」
「うん。うちの家、おっきい『ギルド』をやっててさ。それを継げって父さんがうるさいのなんの。プレジアの副理事長もやってるから、手が回らないみたいで。母さんにでも任せればいいのにさ」
「……副理事長?」
「え? あれ、言ってなかったっけ。私の父さん、プレジアの副理事なの。プレジアが立つときにお金出したんだって」
「…………」
……こいつが貴族のボンボンなのは把握した。
「親の言われるがまま、っていうのもなんかヤだし。かといって、特にやりたいことも思いつかないし。そんな感じでフラフラしてたら、あっという間に卒業の年が来ちゃってさ……アハハ。なっさけないよねぇ」
「そうだな」
「ちょ……そこはフォローしてくれるとこじゃないの?」
「気休め言っても何にもならないだろ。端から見ればお前は情けないし勿体ない。大貴族の生まれで金持ちで――可能性は誰よりも持っていそうなのに」
「…………」
どんな返答を期待していたのか、半笑いのまま片方の眉根を寄せて言葉を失うマリスタ。少々辛辣な気もするが、別段こいつに情けをかけてやる義理もない。
『やあ、アルテアスさん』
そんな沈黙を破るように、人当たりの好さそうな茶髪の少年がマリスタに声をかけてくる。マリスタは生返事を返しながら彼を見て、一度目を瞬かせた。
「テインツ君じゃない。どうしたの、休みの日にいるなんて珍しいね」
『ちょっと、風紀の仕事があってね。ところでさ――』
テインツと呼ばれた少年が、左腕の腕章を指して何やら言う。
――と。その目がスッと細まり、俺の方を向いた。




