「互角、つまり敗戦濃厚」
静かに拳の凍結を解く。短い時間だったが、手の感覚が無い。技とも呼べない小手先だ、改善の余地ありだな。
その間も、ロハザーから目は離さない。奴はよく解らない理由でえらくいきり立っている。前にもこんなことがあった気がした。
それにしても……あれだけ頭に血を上げているようでいて、ロハザーはここまで一切我を失う様子がない。常に攻勢を崩さず、隙あらば仕掛けてくる。
そのくせ守りにもある程度の配慮が出来ている。先の氷の拳も、防げないなりに上体を後ろに逸らしてダメージを軽減していた。
――まるで、ヴィエルナと闘っているかのような感覚。
それもそうか。ロハザー・ハイエイトはグレーローブの実力者なのだから。
片時も忘れていなかった筈の事実を再認識する。
――立ち上がる。
ロハザーも立ち上がる。
『――――――ッッ!!』
戦闘を、再開した。
「うおォォ「砂弾の砲手!!」オォォッッ!!」
砂塵が舞う。
雷光が奔る。
精霊の壁。 撃つ。
先行放電。 弾く。
砂弾の砲手。 防ぐ。
凍の舞踏。 駆ける。
雷弾の砲手。 跳ぶ。
堅き守人。 放つ。
雷宴の台。 打つ。
瞬転。 貫く。
石の蠍。 殴る。
氷弾の砲手。 痺れる。
戦う。
ただ、戦いだけに意識を没入させていく――――――
「ガハ……ァ、ハァ、ハァ……!!」
「はぁ――――はっ、はっ、はっ――――!」
――――体感では、残り時間は十分程度。
だが、残りの魔力は体感、十分ももちはしないだろう。
拮抗でない、膠着。
戦況が傾かない。
主導権が奪えない。
現状の手札では、どれだけ策を弄しても奴の実力の前に跳ね除けられる。
そしてそんな互角は、俺をひたすらに不利へと傾けていく。
「――どうしたよ。随分息が上がってんじゃねぇか異端ッ」
「それはお前も同じだろう。男の纏衣を剥がしていくのなんぞ趣味じゃないんだがな」
「誤解招くような言い方すんなクソ野郎ッ??! テメーも俺も待ちに待った勝負なんだぞ、ちったぁ緊張感ってものを持ちやがれ空気読めない奴が!!」
「別に待ってた覚えなんてないけどな。お前との戦いなんて」
「マジでいちいち勘に障るヤローだな!! 何だってんだオメーは、あのときあれだけケンカふっかけてきといてよ!」
「ケンカ?」
「……トボけてんのか、テメェ? 忘れたなんて言わせねえぞ――あの『宣戦布告』をッ!」
「宣戦――――」




