「マリスタ・アルテアス②」
言われてようやく、マリスタがハッとした顔をする。今更なのは誰だよ。
……って、そうか。よくよく見れば、こいつ。
言動や振る舞いでその魅力は半減どころか八割減ほどしていると思うが、それを差し引いても、マリスタはそこいらの女子では比較にならないほど整った顔立ちをしている。所謂美少女というやつだ。
絹のように滑らかな艶を放つ赤い髪、テキトーでありながら時折見せる気品のようなものや無防備な笑顔、細い体からは想像できない大袈裟なリアクション――つまりギャップ。
パーソナルスペースにずけずけと踏み入る無神経さや、例えズレていようと他人と積極的に会話をしようとする姿勢も……マリスタ・アルテアスの可憐さの前では、人を惹き付ける要素の一つでしかない、のかもしれない。
閑話休題。
何が言いたいかというと。こいつらは恐らく俺を見ているのではなく――――俺のような、見たこともない男と並んで歩くマリスタに興味を引かれているのだろう。
四大貴族である上に、見る人の視線を釘付けにする美貌も兼ね備えている。
大きな学校であれ、注目の的になるのも十分頷けるというやつだ。
「……な、なるほどなるほど。なはは」
何やら一人で納得し、苦笑いしているマリスタ。こいつもようやく、己の影響力を理解し始めたのかもしれない。マリスタはバツが悪そうに手で頭をかき、
「大変だね、ケイったら。男の子にも好かれるなんてさ。少し分かるわよその気持ち」
「どの気持ちだよ」
何一つ理解していなかった。
「さてと! これで一通り案内は終わったかなぁ。あとは、外出した時にでも教えたげるよ。一応、近くに町もあるからさ」
「町か……外出も出来るのか」
「許可取ればね。といっても、ここだけで大体の生活はできちゃうから、あんまり出る人多くないんだけどね。登下校以外で」
「だろうな。……今日は助かった」
「お安い御用ですよ~、へへ。んでも、不安じゃないの? そりゃここは充実した設備がある学校だけど、中等部六年生に編入するとあっという間に卒業しなきゃだよ? その後の進路とか、大丈夫なの?」
進路、という言葉に一瞬、体がぴたりと動きを止める。
担任に白紙の進路希望用紙を提出したのが、もう大昔のことのように感じられた。
そして、進路と言えば。
「進路か……進路指導なんかも、学校であるのか?」
「そりゃあるよー。でもさぁ、今まで勉強して友達と楽しくやって、ってだけの毎日だったのに、いきなり将来のことなんて言われても現実味ないんだよね。私、五年生の最後にあった進路相談、『将来就きたい仕事』の欄、空白で出しちゃってさ」
「――――――」




