「所有属性ばかりが能じゃない」
「!! チ――」
「――どうやら水属性以外では止まるようだな」
拮抗し、魔力の光を火花のように散らす氷と雷。
氷波を押し返すようにして、ロハザーが大きく後退した。
やはりあれは魔法で止まる。そのぶん属性の相性ははっきりと反映されるようだ。――つくづく、この雷と水で拮抗していたアルテアスのお嬢様は規格外だったことが窺えるな。末恐ろしい。
「ッ……」
ロハザーの小さな呻きを見逃さなかった。
彼の体を覆う紫の鎧が小さく弾ける。
その右手、籠手のようにロハザーを守る部分が――――炎のように、揺らぎながら千切れ消えている。
「…………試してみる価値はあるな」
奴は、あの右手で俺の凍の舞踏を受けていた。
とすれば、あの揺らぎは。
「雷宴の台!!」
紫電の波動が襲い来る。
奴の想定通り、精霊の壁で応じる。
効果時間は十秒程度。いつ切れるかは解らない。だから、
「くっ……!!」
九秒程度で、不測の事態を装って障壁を解けば――――奴は、必ず食いついてくる。
視界、右に紫電。きた――
左にも紫、電!?
「ずヴ86t7jhgf5dッ――ッ!!?」
「フェイントだよ。バァーカ!」
雷撃が顔を右から貫き、頬を殴られた衝撃で吹き飛び、倒れる。
痺れ。足先から痙攣が抜け、皮膚の内を焼かれたような不快な熱さが、痛みとなって体を駆けた。
迂闊。
目だ。紫電を視認した時の眼光で気取られた――――!
「バレバレな――演技しやがってよッ!!」
先行放電の音。
この好機に気は払うまい。正面から来る。
好都合。
既に手は地にある。
詠唱破棄。
「〝堅き守人〟」
――石壁が突き上がり、ロハザーの拳を受けた。
ロハザーの動揺が空気を伝う。
「!?――土属性の――――ッ!!」
「くっ……」
俺を守るように屹立する頼もしい石陰の内で体に鞭打ち四つに這い、なんとか石壁に手を置く。
突き出でろ、石の針山。
「〝石の蠍〟」
「うっ――ぉおァッ!!?」
ロハザーの悲鳴。石の向こうから気配が消えた。
当然の後退だ。そして――体の痺れはなんとか消えたか。
跳躍。
石壁の上に飛び乗った。
視界には――――紫の中に一筋の赤を頬から流す、ロハザーの姿。
「テメェ……いつの間に土属性の魔法を……!」




