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「ゆらぎ者たちの恐れ」



「行ってくる」

「――――……」



 ――「行ってくる」などと言わなければよかったと、少し後悔した。

 戦地に特攻隊(もう帰らない者)を送り出す人は、あるいはこんな顔をしていたのかもしれない。

 そんな万感ばんかんを込めたような表情のまま、マリスタは眉根まゆねを寄せていた。



「死なないでよ。絶対生きて帰って。ケイ」



 ――ご丁寧ていねいにそんな言葉までえて。



 大袈裟おおげさな、と思わないではない。小恥こはずかしい気持ちが無い訳ではない。

 だがおかげで再認識した。これは試合ではなく、そういう戦場なのだと。死は常にかたわらに存在するのだと。



 マリスタの言葉を、誰も笑わない。

 あのナタリー・コーミレイ(パパラッチ)でさえ、マリスタの後ろで神妙しんみょうな顔をして、俺を見ている。

 その深い瞳は、俺の中に恐怖の一欠片ひとかけらでも探しているように、見えた。



〝まるで人を養分とする寄生虫 《きせいちゅう》……私は、貴方のその在り方が恐ろしいのです〟



「…………」



 ……お前の目には、俺はまだ寄生虫のように映っているか。



 スペース入り口へ、目を向ける。

 改めて、呼吸を整える。



 行こう。




◆    ◆




「ヴィエルナ!」



 ロハザーは、スペース出入り口でたたずむヴィエルナに駆け寄った。

 ヴィエルナは試合直後であるにもかかわらず平静そのもので、ロハザーの切迫をにじませる声にもいつも通りの反応を見せる。

 ロハザーはいよいよ顔を険しくした。



「……タイミングが遅いんじゃねぇか? 棄権きけんするなら今だろ」

「棄権?」

「……『今の今まで考えてもいませんでした』って顔だな」



 ロハザーの言葉に、静かな視線を返すヴィエルナ。

 ロハザーが苦しそうに目を細めた。



「……勝てると思ってんならとんだお門違かどちがいだぞ。ナイセストは次元が違う。それがわからねぇお前じゃねぇだろ、ヴィエルナ!」

「…………」

「……お前は空気に影響を受けてるだけなんだよ」

「……空気(・・)

「そうだ。アマセとかマr――アルテアスのやつが作ってる、『貴族と「平民」の力関係を変えないといけない』みてーな空気にだ。熱にうかされてるのと変わんねぇんだよ」

「………………空気、か」



 ヴィエルナが意識を遠くへ送る。

 ナイセストは気付かない。



「『もしかしたら』なんて気持ちでナイセストに挑むな。『たら』とか『れば』とか、そんなあやふやなモンでナイセストに立ち向かえるワケねぇじゃねぇか。しっかり頭働かせろヴィエルナ・キース、空気に、一時の熱狂に飲まれるようなお前じゃ――」

「マリスタと、闘ってみて。どうだった?」

「――なんだと?」



 ヴィエルナが小さく微笑ほほえむ。

 ロハザーの切迫などどこ吹く風、といった風に。



「楽しかった、んじゃない?」

「き。急に何言って」

「あんなに、晴れ晴れしてた、ロハザー。久しぶりに、見たから」

「……ぁ……」

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