「蚊帳の外、戦いの中、みずから」
『時間は巻いてるが、このまま準決勝を始めるぞ。……準決勝第一試合。ケイ・アマセ対、ロハザー・ハイエイト。第二試合、ナイセスト・ティアルバー対、ヴィエルナ・キース』
……観覧席にいる人の数が、増えている気がする。
いや。この二十四層そのものに人が増えているのか。
観衆の注目を集めているのは、この第二ブロックで間違いない。
分かり切ってはいたことだが、なんだかな。自分一人だけ、蚊帳の外にいるような気分だ。
それも当然。この盛り上がりも、貴族と「平民」の対立も。どちらも俺にとっては、全く以て与り知らぬ他人事でしかないからだ。
〝ケイ。お願い〟
「…………」
誰かの都合も彼女の願いも、知ったことではない。
俺はただ俺の為にのみ戦い、血を流す。
その為だけに、俺はこの異世界へと来たのだから。
「ケイ」
声。
友人に体を支えられたマリスタが、救護スペースから出てきていた。
何人かいなくなっているが――恐らく、ナイセストの魔波を受けた影響ではないだろうか。
『さっそく第一試合を始める。ケイ・アマセ、そしてロハザー・ハイエイト。スペースに入って位置に付け』
トルトの声。
真っ先に張り詰めた顔になるマリスタ。
どうしてお前がそう険しい顔になるんだよ。
「……氷属性って、水属性を基にして出来てるんだよね。ってことは、もしかして」
「やはり勉強が足らないな。氷は液体の水と違って、電気を通しにくい半導体だ。相性に優劣関係は生じない」
「……雷は、当たったときの衝撃がものすごいよ。感じたことない痛みが体中をかきまわすから。だから、一発でも当たったら棄――」
「英雄の鎧で魔力回路に十分な魔力を通していれば、体の痺れや痛みにある程度鈍感になれる。それはお前と奴との試合内容から大体わかった。それを怠らずに立ち回るだけだ」
「……えっと。あと、」
マリスタが下を向き、必死に言葉を探している。
俺を引き留める、棄権させる為の言葉を探している。決して俺を応援しに来た訳じゃない。
それが解っているからこそ、マリスタを支えているエリダも、周りにいるシスティーナやシータも黙っているのだろう。全員気持ちは同じなようだ。
怖い気持ちは理解出来過ぎている。
本来なら付き合い必要のないこんな問答に応じてしまう辺り、俺の中にもロハザーとの一戦を避けたいという気持ちがあるのだろう。
「もう呼ばれてるんだ。マリスタ」
断ち切って行かなければ。




