「そして無銘は異世界を見る」
「ふー」
小さな口をすぼめ、切れてもいない息を整えているヴィエルナ。
間の抜けた姿に感じるが、言い換えれば戦闘の中でも滅多に動揺しないということ。
――俺が死の恐怖に竦まない理由。
それは彼女のような、俺に羨望を抱かせる存在が身近にあるからだ。
飽くなき希求に応え得るだけの者が、いつも傍で――いや、少し上で待ってくれている。常に俺の先を行かんと、進み続けてくれている。
それが、俺に恐怖を忘れさせてくれるんだ。
スペースのヴィエルナと目が合う。
能面の彼女が、少しだけ笑った気がした。
決して多くない回数の鍛錬を共にしてきた中で、実はなかなか表情豊かなのだと分かった少女。
この気持ちを好敵手――というのかは分からないが。
悪くないこの思いを、持ち続けていられたらと思う。
……ヴィエルナがスペースを出ていく。
出揃った、か。
『一回戦が終わった。第二ブロックの連中はいったんトーナメント表に注目しろ』
拡声されたトルトの声が響く。
見ると、校長が広げていた巻物の対戦組み合わせ表から青白い光の玉が次々と飛び出し、障壁の解かれた無人のスペース中央で一体化、――――俺を含む、一回戦を勝ち上がった者達の名前を円形に、並べ浮かばせた。
「ケイ・アマセ。
ロハザー・ハイエイト。
ナイセスト・ティアルバー。
ヴィエルナ・キース。
……以上四名が二回戦――準決勝に進出する」
――改めて、会場が騒めいた。
「――――…………」
――一つのブロックにつき、八名。
一度勝ち上がれば、途端に戦場は「準決勝」と呼ばれる場所になるのだと、今更ながらに思い至った。
スポーツや武道の経験はない。
勝ち負けの世界で、生きた経験もない。
俺の他に残っている者。
グレーローブ。
グレーローブ。
ホワイトローブ。
皆が皆、義勇兵コースで腕を磨いてきた手練れの見習いばかり。
そして全員が、リシディア内でも有数の「血統書付き」である、貴族であり、風紀委員。
「…………、」
そんな中に、明らかに異質な人間が、独り。
名は無銘。義勇兵コース歴二ヶ月の、レッドローブ。
その無銘は風紀委員と事を構え、貴族に目の敵にされている。
酷く場違いで、これ以上無い程相応しい場所。
「……――――」
こんなにも行きたかった、異世界。




