「輝かし君」
◆ ◆
視線が外れる。白黒髪の男が歩き去っていく。
肌で感じるほど昏い魔波と瞳に、吐き気を感じた。
次いで伝う汗。早まる鼓動。呼吸を再開する灰。
俺はようやく、自分が安全な場所で生きていることを実感した。
「……戦う前に経験することが出来て良かった。本当に」
そんな独り言が口を突く。
それほどに、ナイセストの放つ魔波は研ぎ澄まされていた。
余波を浴びせるだけで相手を刺し貫き、致命傷を与えられたと錯覚させてしまうことが出来てしまう程に。
果たして、あの赤髪の男でもこれ程に殺気立った魔波を放っていただろうか。
「ナイセスト・ティアルバー……」
目を閉じ、深く呼吸する。
家族を奪ったあの爆発以来だ。これ程に、何かを恐怖するというのは。
だけど、それでも。
笑う。
恐怖を感じない訳ではない。怖くない訳が無い。
ただ、俺は――
「第四試合始めんぞ。早く中に入れ、ベージュローブ」
ベージュローブの少年が、意気込み十分にスペースへ入る。
――それを迎えるのは、あの時と同じ佇まいの少女。
〝――――手合わせ。してくれる? ケイ・アマセ君〟
グレーローブの下に、動きやすさを重視した軽装と健康的な四肢を携えた、内気で大人しそうな見た目からは想像も付かない戦いをする少女。
例えばその圧倒的な強さに、地面から彼女を仰ぎ見たことがあった。
俺もいつか、こんな力が欲しいと求めて。
相手を討ち倒しても尚、自然体でいる彼女に憧れさえ抱いて。
「そんじゃ第四試合、」
鍛錬で何度も挑み、そしてその度に敗北した。
何度挑んでも何度勝っても、奴はただ平静にいつも通りに、
〝義勇兵コース、グレーローブ。ヴィエルナ・キース。いくよ〟
「義勇兵コース、グレーローブ。ヴィエルナ・キース。いくよ」
決まってあの名乗りで、戦闘を開始する。
「始めろ」
二人が英雄の鎧を発動する。
「!? ぁ――――」
同時に、ヴィエルナはベージュローブの背後を取っていた。
――あの動きだ。
「くっ、う……うぁっ!!」
音も無い瞬転で背後を取る。
ビージ・バディルオンとの戦いで用いた戦法は、ヴィエルナの動きから着想を得た。
「くそっ!」
ベージュローブの少年が、何とか所有属性武器を錬成しようともがいている。
だがその距離は、ほぼほぼ零。
「ぐあッ――!?」
無手の弾丸の、射程圏内――――。




