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「踊り踊らされ、いま彼は舞台へ」



 ――瘴気しょうきのような圧が、二十四層全てをおおう。



 各所で小さな悲鳴が上がる。

 障壁がきしみを上げ、重力を倍したかのような重い空気が観衆かんしゅうを襲い、数人が意識を失って倒れたのだ。



 口を閉じたまま、大きく呼吸をするナイセスト。



 彼の目の前には、まさにひざから崩れ落ちていくケイミー・セイカードがいた。



 受け身もとらず、顔面から地にるケイミー。

 その顔は毛穴という毛穴から大粒の汗を拭き出し、涎と涙と鼻水と尿にょうと――、ありとあらゆる体液を垂れ流しながら、焦点の合わない眼球が痙攣けいれんを起こしている。

 死よりも、無様な姿だ。



 スペースの障壁が解け、飛び降りてきたペトラがすぐさまケイミーを抱きかかえ、救護スペースへと駆けていった。



「勝者、ナイセスト・ティアルバー。……しかし、容赦ようしゃねぇなお前さんは」



 トルトがあきれ顔でナイセストを見た。

 ナイセストが目で応じる。



「今の魔波、致死圧ちしあつだったぞ。ロクな実力を持たねぇ奴が真正面から浴びたら精神を粉微塵こなみじんにされちまうやつだ。やるにしたってもう少し加減できなかったのか」

「………………」

「死ぬか、良くて精神崩壊、魔力回路(ゼーレ)再起不能で魔術師廃業か……ったく、これだからガキってのは末恐ろしい。あぁそうとも、殺しも認められてるさ、この死合しあいはな」



 トルトがスペースを去る。

 観覧席からナイセストへと注がれる視線。



 その意味合いは、明らかにこれまでと違っていて。



(……もう、疑いようもない)



 力の入らない足をつとめて平常に動かし、スペースを出る。



(――――動かされている。ティアルバーが、たった一人の無銘むめいに)



「――――」

「!」



 入り口に、ヴィエルナ・キースが立っていた。



「…………」

「…………」



 いつもと変わらない、無表情。

 ヴィエルナの試合は、第四試合だ。

 第三試合が終わったのだから、彼女がここに居ても何の違和感もない。

 いつも通り、彼女が会釈えしゃくで一礼し、そのまま無言でスペースへと入っていく。



 ――――そうならないのではないかと、ナイセストは考えてしまった。



「…………」



 ヴィエルナが視線をナイセストにただ向けたまま、スペースへ入っていく。



 いつの間にかその目は、まるで敵を威嚇いかくしているようで。



(……もてあそばれていたのか。知らず知らず、俺は。あの、無銘に)



「……いや。もはや無銘な(・・・・・・)どとは呼ぶまい(・・・・・・・)



 観覧席かんらんせきを見上げる。



「――――――――――」

「――――――――――」



 赤き金色は、未だかわききった目で白き白黒へ視線を返した。



(その渇きで、俺からも奪おうというのか。ケイ・アマセ)



〝我々のような、全てに関し非の打ちどころのない一族になると、どうも『敵』に欠けるのだ、ナイセスト〟



〝お前ならば――その馬を()み殺せよう?〟



 視線を切る。



 ナイセストは、小さく口のはしを持ち上げた自分を穏やかに認識した。



(――今だけだ。お前のてのひらで踊らされるのは。……この心が、踊るのは)

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