「マリスタ・アルテアス①」
金髪を波打たせるようにして振り向いたシャノリアが、黒いローブの内側に手を入れ、懐から眼鏡を取り出した。パッと見、何の変哲もないように見えるが――よく見ると、フレームの左右同じ場所に、薄いブルーの小さな魔石がついている。
「メガネか? どうするんだ、それ」
「この眼鏡には、レンズ越しに見た文字を、読める言葉に翻訳する魔法が込められているの。これがあれば自学習にも困らないと思うから、遠慮なく使って」
「……悪いな。ここまでしてもらって」
「私はあなたをここに紹介しただけ。その他は全部、プレジアからの支給品よ。至れり尽くせり、って感じよね。しっかり学びなさい――ケイ」
「!」
「うふふ、私もマリスタに乗っかってみました。あ、嫌だったら言ってね、マリスタのも矯正するから」
「え?!?!」
「乗っかってみました」って。教師だろ、あんた。
いや、別にどちらでも構わないんだが。
「……別に構わない。とにかく、色々と世話を焼いてくれて助かった。それには、本当に感謝してる」
「ええ、ありがたく頂戴しておくわね。それじゃあ、次はHRで会いましょ」
ニコリとほほ笑んだシャノリアは、くるりと踵を返し、去っていった。マリスタが手を打ち鳴らす。
「さ! それじゃ、さっそく案内したげる! まずはどっからいこうか!」
「まずは部屋を見る」
「ガクーッ……って、まぁそだよね。うん。じゃ、私ここで待たせてもらっていい?」
「ああ。好きなとこにかけててくれ」
「んじゃ失礼してっ」
芸人のようなリアクションを返してきたマリスタは、そのままスススと室内に移動し、学習スペースの椅子にぽすっと腰かけた。
それを横目に、俺も部屋の内装を細かく確認していく。……やはり、風呂は付いていないようだった。
「間取りも私んとことほとんど同じだねー。男子寮だからなんか変わってないかと思ったんだけど」
「……ちょっと待て、マリスタ」
「はいきた『ちょっと待て』! それよく使うよね」
マリスタが楽しそうに指をさしてくる。うるさいよ。
「……今、私のところと同じって言ったよな。お前、もしかしなくても寮生活なのか?」
「うん、そだよ。女子寮で二人部屋」
「……そうか」
あっけらかんと言ってのけるマリスタ。こいつのアルテアス家も大貴族というなら、ディノバーツ邸よろしく大きな屋敷があると思ったのだが……まあ、何か事情があるんだろう。深く詮索はするまい。
「親と一緒だとうるさくってさー。変にカタ苦しいし、寮生活の方が気楽だもん」
何の事情もなかった。
 




