「目覚め、ゆっくりと」
「人の言葉に偏見があるなんて当たり前さ。大切なのは、『自分の言葉には偏見がある』って、ちゃんと自覚していることだよ。君みたいにね」
「!!――――」
面食らう少年の前で、ホワイトローブが微笑む。
「……知ってることだけで構わないよ。プレジアで何があって、今どういう状況なのか。教えて欲しい」
「……実のところは、僕もよく知らないんです。この二ヶ月ほど、学校に行っていなかったので」
「……もしかして、それも今の状況に関係があるのかい?」
「…………」
(偏見を、自覚して――)
「……二カ月前。うちのクラスに、一人の転校生が来たんです」
◆ ◆
赤毛の英雄は、皆が見ている中でゆっくりと目を開けた。
「…………」
開いたばかりの目は熟睡から目覚めたように薄ぼんやりとしていて、緊張感はまったく感じられない。
魔力切れによる気絶は文字通り、「体の機能を全て回復に充てる行為」だということなのか、目覚めた時には疲労感が毛ほども感じられないほどに失せているのだ――俺も魔力切れから目覚めた時には、これが昨夜死ぬほど吐血した人間の体調か、と面食らった。
……それにしたって、試合から数分で目覚めるというのは早すぎるが。
お前の回復力はなんなのだ、一体。
腹に化け物でも飼っているのではなかろうか。
「!!!! 目ェ覚ましたぁッ!!」
『!!!!』
「マリスタ」
「マリスタッ!! けけ、怪我はありませんかっ」
「ぁ、大丈夫? 体とか体調とか、変なところはない?」
「はァ~~~~よかった目ェ覚ましたかッ! 信じてたわよアンタこのマリスタこの!!!」
「むにぅっ!? み、みんな……?」
「って、なんか目覚めるのが早すぎる気もするけど……大貴族の血筋の成せる業なのかしら」
「ど、どんだけ壊れスペックなのさ大貴族って……」
「何でも構うもんかっ!! マリスタあんたすごいわよ、ホントスゴかった!!」
「でも、本当に無事でよかった」
「それでっ! あの弱小貴族火山爆発頭飴野郎にはどんな社会的死を与えれば気が済みますかッ!!」
「そ、それはナタリーの気が済まないだけだと思うな……」
「あ、あの、えっと。みんな、ここは――」
ふらふらと友人たちの間をさまよっていたマリスタの目が、少し離れた場所にいた俺を捉える。
その青い目が、布に染み込む血のように急速に据わった。
「結果はッ!?」
友人たちを蹴散らして跳ね起き、マリスタが叫ぶ。
それに被せるように、
「ハイエイト君の勝ちよ」
魔女リセルは、患者の精神にナイフを突き立てた。




