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「Interlude―83」

 歓声かんせいが、彼の耳に木霊こだまする。



 遠く聞こえる衆目のうるささの源は、彼の視界の中央にある。

 立ち尽くしている、オレンジ色の髪を持つグレーローブの少年。

 その向かいで倒れている、赤髪のレッドローブの少女。



 グレーローブとレッドローブ。

 それは本来――少なくとも彼の中では――、同じ舞台に並び立つことさえ出来るはずがない組み合わせで。



 彼は、自分が白昼夢はくちゅうむでも見ているのだろうか、と錯覚さっかくした。

 いな。それは最早もはや、「白昼夢であって欲しい」という願望に近い。



 彼が最初に「夢」を見たのは、今よりちょうど十五分ほど前。

 二ヶ月に及ぶ不登校(・・・)は、彼から実技試験の開始時間さえ忘れさせており。

 日取ひどりだけを辛うじて記憶していた彼は、ようやく重い腰を上げて観戦に訪れたのである。



 自らのローブなど、到底とうてい羽織(はお)る気になれず。

 彼はただ、



(――お前はまだ、そこにいるのか、「異端」。……そうだとしたら、お前は見下げ果てたおろか者だ)



 ただ、プレジアを、そして彼をき乱し続ける「異端」の無様な負け姿を一目見ようとだけ、考えた。



 それが。



〝ビージ・バディルオン戦闘不能。勝者ケイ・アマセ〟



 ――生理的不快音せいりてきふかいおんのように聞こえたその声を、絶望を、彼は忘れることが出来ないでいた。



 自分が信じていたもの。

 自分を取り巻いていた世界。

 それらがすべて、「異端」の手によって片端かたはしから切り崩され、呪われ、次々に死んでいく――



(――神様)



 彼は友人の下へ駆けた。

 信じたかった。今のは悪い夢だと。

 仲間内でも随一ずいいちの実力者であった友が、その力の一端いったんすら見せることなく実技試験から消えることになるなんて。

 あんな結果では、友は今回の試験で評価の対象にさえなりはしない。

 評価は現状維持にえ置かれるか、悪くすればグリーンローブ(下の階級)への降格こうかくも在り得る。

 「実力差を見抜く(きけんする)ことも出来ず、みすみす死にに行った」――それは、こと義勇兵としての資質ししつを問われる実技試験においては、絶対に避けなければならない最悪の結果なのである。



(ああ、神様)



 在り得ていいはずがない。

 ほんの二カ月前にポッと現れただけの無能に、輝かしき友の――我々(・・)のすべてが奪われていいはずがない。

 そのような理不尽、神が許すはずが無い――――



 有象無象うぞうむぞうと吐き捨ててきた神にすがりつき、彼は第二十四層、大演習場の救護スペースへと押し入った。



「アァァアアァアッァアァァァァァァァアアマセェェェェェェッェエエェェッェッェェェェエッェェエエエエエ!??!??!?!?!?!???!??!?!!?」

「ッ!?」

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