「静か、そして」
ロハザーの体内に収まり切れなかった魔力が、魔力回路から漏れ出て吹き上がる。
(この感じ――――まさかっ、上級魔法!?)
「〝雷光の主よッ! 大空に降誕せし雷霆の王子よッ!!〟」
マリスタは。
「――――――――」
笑った。
「――――〝裂海の主よッ!〟」
「――――!!」
マリスタから、光の柱のように魔力があふれ出る。
「〝界溝治めし大嵐の担い手、天空神の神子よ!〟」
(――――――こいつッ!!!!)
ロハザーが笑う。
笑いあう二人の体に、最大限の魔力が収束していく――――!
会場がにわかに騒然とする。
こうした事態があるため、観覧席にて試合を観戦する者は少ないのである。
二人が発する尋常ならざる魔力。その魔法。
スペースを覆う魔法障壁が、その激突による余波を全て防いでくれるとは限らない――――!
「……〝今その神鳴ッ!! 御声を世に落としめ轟けッ!! 我が手に敵を討つ先鋭を授け給え〟エェェッッ――――――!!!」
「〝颶風従えしその諸手に掲ぐ海波の聖痕をこの手にッ!!!〟えッと、……〝凪ぎ渡らしめ給えッ、海竜の咆哮ッッ!!〟」
第二十四層が、揺れた。
「雷霆の槍アァァッッ――――――!!!!」
「海神の三叉槍ッ――――――!!!!」
他のブロックにいた者達が残らず第二ブロックへと振り返り、熱波のように荒れ狂う蒼穹と紫紺の魔波の激突を真正面から浴びる。
「きゃあっ!!?――――ぁ、」
突風のようにぶつかってきた魔波によろけたパールゥを背後から片手で抱き留め、圭が少女たちをも包む魔法障壁を展開する。
暗色の光が明滅しながら観覧席へと押し寄せ、スペースを、演習場をまだらに染める。
その発生源には、紫電に白光を内包した一条の先鋭を持つ雷槍。それに真正面から応ずる、咆哮の音圧を牙の如く象り雷槍に食らい付く三叉の巨槍。
矛盾は、ここに再び拮抗していた。
「ぬうぅぅうううううあぁァッッ!!!!」
「ああぁぁぁあああああぁァッッ!!!!」
裂帛の気合が、相手の魔力の塊を押し切らんと迸る。スペースを極彩が飛び交い、その絢爛と魔力回路が発する神経に障る痛みに、両者は堪らずかざした腕を掴み、片目を閉じる。
ロハザーが押され、両足が飛ぶように後退する。
マリスタがかざした手を覆うローブの袖が、魔波の圧に耐え切れずボロ布のように崩れ落ちていく。
(だが、ここが――――)
(正念場ッッ!!)
無論だ。
彼らに最早、勝利以外の終息は無い――――!
『おォオァぁああああああああああ――――――――ッッ!!!!!』
――――――――ロハザーは、我が身と同じく対面の壁に叩き付けられているマリスタを見る。
彼女もロハザーを視ている。
互いに視界をかばっていた両腕を外し、神経を伝い来るとてつもない頭痛、焼き切れそうな魔力回路の疼痛に耐える。
「――――どうしてそこまで変われたんだ?」
知らず、灰色が問う。
赤色は全神経を動員し、なんとか口を笑みに曲げ、つぶやいた。
「変わってないよ。これが私だもの。――――そう、ケイは私に気付かせてくれた」
赤の口から、一筋の紅が伝う。
「――――――――」
放心したように立ち尽くすロハザーの視界の中で、マリスタは地に伏していった。
「、っと……」
監督官、トルト・ザードチップが降り立ち、マリスタの前でしゃがんで彼女を診る。
ややあって立ち上がり、手刀の要領で片手をロハザーに向けた。
「マリスタ・アルテアス気絶。よって勝者、ロハザー・ハイエイト」




