「四大貴族」
俺の表情から察したらしいシャノリアが補足してくれる。
「今で言うリシディアの『貴族』は、昔リシディアにあった貴族制度の名残みたいなものでね。名前だけは残ってたりするけど、今ではほとんど公的な権力は持ってないわ。ただ、」
「例外があるのよ! シャノリア先生の『ディノバーツ家』とか、ギリート君とこの『イグニトリオ家』とか――私、マリスタの『アルテアス家』とかね!」
……何だと?
シャノリアを見る。金髪の淑女はマリスタを見て苦笑するだけで――その言葉を否定はしなかった。
「……それじゃあ、お前達って……貴族なのか。それも、力のある?」
「その通り! ディノバーツ、アルテアス、イグニトリオ、そしてティアルバーの四つの家を指して、リシディア王国の『四大貴族』なんて呼ばれてるのよ! すごいっしょ!」
目を最大限にキラキラさせてマリスタ。割と見慣れたその表情のせいで、四大貴族が凄いことなのかいまいち分からない。
それを更に察してか、シャノリアが再び苦しい笑い声を漏らす。
「私達四大貴族の家は、当時、国の名前にもなってるリシディア家と一緒に、建国に関わったほどの力があってね。貴族制度が廃れた今でも、それなりに力を持っていたりするの。……こちらがそのつもりがなくても、相手から敬意を向けられたり、とかね」
なんだか影のある表情で、シャノリアが言う。
考えてみればそれほどの家柄でありながら、一介の魔法学校の教師をしているというのは妙な気もする。屋敷の大きさや立地など、貴族と聞いてなんとなく腑に落ちることもあったが……恐らく他人には見えない苦労も抱えているんだろう。
「そう!! ほんともー困っちゃいますよねー先生っ!」
……こいつからはそんな苦労を微塵も感じないが。
というか、お家柄がそれほどでありながらレッドローブというのはどういうことなんだ。マリスタ・アルテアス。
初対面から決して印象は良くなかったが、ここまで階段を転げ落ちるように、俺の中でのマリスタのイメージは落下(下落なんてものじゃない。これはもはや落下なのだ)を続けている。
「話、すっごく逸れちゃったわね。まあそんなわけで、ギリート君がいないのは家庭の事情ね。他に質問はある?」
「あ、ああ……この後、出来ればどちらかに学校の案内を頼みたいんだ」
「はいはい! それなら私が行きますっ!」
赤毛を弾ませ、ぴょんと手を挙げるマリスタ。シャノリアが頷いた。
「ええ、それじゃよろしく頼むわね、マリスタ。私は仕事があって職員室区画に戻るから、何かあったらそこまで言いに来てね――と、そうだった。忘れるところだったわ」




