「アルテアスとハイエイト」
ロハザーがその意味を解し、みるみる顔を怒らせる。
「テメェ――舐め腐ンのも大概にしろよッッ!!!!?」
「トドメさすなら好きにして。なんなら降参しようか?」
「バカか!? そんなことで俺の」
「メンツが保てないって? アホらし。あんたの自尊心を満たすかクジくかだけの闘いなんて、私はしたくないんだけど」
「雷で頭イカれちまったんじゃねぇのか!? テメェが試合の開始で言ってた、ご大層な約束とやらはどうしたんだよ。戦いの途中でくらいフラフラヘラヘラすんな腰抜けッ!」
「分かってないわね。今のあんたには、私の約束を懸ける価値もないって言ってんの」
「――……殺すぞ、お前」
肩透かしを食らったロハザーがせめてと言葉を強めるも、マリスタはあくまで静かな瞳を貫く。
「ご自由にどうぞ。何をやっても、あんたの負けだけどね。だって私、もう勝ってるもの」
「は?? マジで頭沸いてんのかテメェ。何の理屈も通ってねぇぞ」
「そんなに言うなら通してあげようか? 『オレはずっと積み上げてきたグレーローブ。オマエは大して積み上げてないレッドローブ。だからオマエがオレに勝てるはずはない』――それにあんたはティアルバー君の言葉を使って、『強い者に感情だけで歯向かうな』とも言ったわ」
マリスタが逆手でロハザーを指さす。ロハザーが目元をヒクつかせた。
「それがどうした。当たり前だと何度も言ったろうがッ」
「そうね。貴族と『平民』、グレーローブとレッドローブ。シンプルな力関係じゃない、バカな私でも分かったわ。――――だって私は大貴族だから」
「……!」
その手でそのまま自分の胸に手を当てたマリスタに、ロハザーの顔色が変わる。
柄にもなく、マリスタが顔を上げ、冷たく尊大にロハザーを見下ろした。
「聞いてあげようか。アンタ、弱小貴族の分際で何を大貴族の私に歯向かおうっていうの?」
「――――、ふ、ざ」
「ふざけんな、なんて言わないでしょうね。私もティアルバー君も等しく大貴族なんだから――『平民』に頭が高いと言ってのけたあんただもの。当然、私を気遣って頭低く生きてくれなきゃいけないはずじゃない? 『自分の頭で何一つ考えてない』。『自分の芯が一つもない』。『ティアルバーに乗ってるだけ』。『平気な顔で平民を馬鹿にしてる』。全部アンタが私に言ったことよ。……笑わせないでくれる? ぜーんぶアンタのことじゃない」
「な――あ、ぁ」
「私をこんな目にあわせてさ。私の父さんが、母さんが黙ってると思う? これからどうなるか分かってんでしょうね。こっちのセリフよ――殺すぞ、ハイエイトッ!」
「………………!!!!」
――ロハザーは、確実に一歩後ずさった。
その様子を見て、マリスタは口を閉じたまま大きく息を吐き――――自分の頬を、思いきり叩き抜いた。
「っ!?」




