「勝負はその小さな間に」
◆ ◆
「あ――あんたとここにいたいって、あいつ……どういう、その、どういうこと?!」
「じゃ、邪推のしがいがある発言ね……これはまた」
エリダが動転しているのを見て、システィーナが苦笑いする。
その他も大体似たり寄ったりな反応を示している中で、ナタリーだけが鋭く俺を流し見た。
「ケイさん。さっきあなた、一体何をマリスタに吹き込んだのですか?」
「? 何の話だ」
「とぼけないでくださいますかっ?☆ あの子がああして妙に蛮勇に駆られているときは、だいたい貴方の差し金と相場は決まっているんです」
「どんな先入観だそれは……俺はあいつの師匠じゃないんだぞ」
スペースを見る。
滾々と湧き出る湧き水のように透き通った色をしたマリスタの魔波が場を満たし、ロハザーの魔力の気配を完全に押し潰している。
周囲を見る。
観覧席の人気はやはりまばらだが、その数少ない目の群れは、皆一様にスペースに、その中央でグレーローブを気圧しているレッドローブに釘付けになっている。
何らかの決意を胸に、臆することなく強敵に向かい合う。
その姿はまるで、秘めた力に覚醒した主人公のようで。
「……あれって、マリスタ……なんだよね?」
「んにゃ? 何言ってんのさパールゥ、バカになったの??」
「馬鹿はあんたよパフィラ、パールゥはそーいうこと言ってるんじゃないの」
「???」
「うん……私も、同じことを思ってた。あそこに立ってるマリスタは……」
「全然、弱そうには見えない……よね。むしろ強そう、っていうか」
リアの言葉をシータが継ぐ。パールゥが頷いた。
そう思うのも、無理もないな。
「なんで笑ってるんですかあなたは気持ち悪いですねぇ、バッチリ映しましたからねっ☆」
「不思議だよな。あいつらの実力差ははっきりしてるのに」
「…………………………」
「え。でもアマセ君、こうして見てても、あの二人の力は」
「同じに見えるって? まさか。細かい魔法の知識や戦闘技能は圧倒的にロハザーが上だ。実力は違い過ぎている――――マリスタがロハザー相手に善戦出来ているのは、あいつらが似た者同士だからだよ。理屈より感情で動くタイプだ……気持ち一つで強くも弱くもなる」
「でも実際に今、マリスタはハイエイト君と互角で――」
「ああ。そうだな」
「言いたいことがあるなら勿体ぶらずにさっさと仰っては如何ですか?気持ち悪い含み笑いなんか浮かべてないで」
実につまらなさそうにナタリーが言う。
そっちの顔の方が似合ってるな、お前は。一生ぶすくれてると良い。
「テインツやヴィエルナ、上位のローブを持つ学生達……圧倒的に実力差があると思った相手でも、いざ戦ってみると互角の戦いになったりすることが何度もあった」
「私と互角……?」
「ほらキースさん、どうどう」
「ずっと不思議だったけど、場数を踏んでみて解ったよ。実力だけが闘いの全てじゃない。異なる実力を持った二人が揺れ動く、決着はその狭間にある。――――弱そうに見えなくて当然だ。今このときのあいつは、紛れもなく強いんだから」
――俺はまた、何を長ったらしい講釈を。出来た身分か、馬鹿め。
「頑張れーーーーッ!! マリスタぁーー!!!」
「!?」
 




