「混乱、少女は求め、声は」
マリスタの疲労は薄い。
魔力にもまだ余裕はある。
しかし、雷によるダメージの蓄積は、確実に彼女の体を蝕みつつあった。
英雄の鎧によって鈍くなったとはいえ、体の内側は常にひりつくように痛みを訴えてくる。
この先魔法を解除したら一体どうなるのか、マリスタは気持ちだけを身震いさせた。
だが、蝕まれているのは、体よりも。
(……あんだけ「ビリビリは食らわない」、「撃つ暇も与えない」って言っときながら……私、もうどんだけやられちゃったんだろ。全校に生中継なのよ、これ。穴があったら入りたい)
これまでは、どれだけ悪目立ちしようと良かった。
「自分は努力をしていない」。それがマリスタにとって、悪目立ちの免罪符だったからだ。
努力を一切せずにこの状態であったなら、マリスタの重荷となるものは何もなかったであろう。
だが、今は事情が違う。
歩き出した少女には、容赦のない重圧がのしかかっていた。
(…………勝てなかったら、どうなるんだろう。私)
考えても仕方ない事ばかりが、顔をしかめた少女の脳裏をよぎる。
「これまでマトモな努力をしたことがない怠惰な奴が気まぐれにちょっと努力して、これまでとのギャップで『すごい』『エラい』ともてはやされる……テメェみてぇなのが一番腹立つんだよ! なまじ元々才能のあるやつがそれを遣ると、コツコツコツコツ努力してきたやつなんざ平気で追い抜いちまいやがるから始末が悪りぃッ!」
負ける。
嘲笑われる。
見放される。
見限られる。
負い目の中で、ずっと生きていく。
〝たすけておねえちゃん、たすけてぇ……〟
〝私がケイと一緒にいる! 私がケイと一緒に強くなる!〟
――その人生全てが、「約束を守れなかった」ものになる。
(――地獄。嫌だ、絶対嫌だ、そんなの)
思わず生唾を飲み込み、苦い顔になるマリスタ。
敗北の意味を、その先の惨めを想像し、マリスタは体を固くする。
(どうすればいい? どうすれば私は――ロハザーに勝つことが出来る?)
考える。
「テメェと俺にゃ雲泥の、天と地ほどの差があるんだよ! そもそも勝つこと、戦うことへのモチベーションが――」
(魔力を集中して強力な一発を?確かに私にもアレが――いやダメだ、立ち止まって魔力を集中してたらまたあのチビ雷をくらっちゃうもう体にダメージを重ねたくない)
考える。
「大貴族の自覚すら持ててねぇテメェが、ずっと義勇兵コース目指して戦ってきた俺に――」
(さっきの戦法も破られた。でもあれ以上をやろうとしたら、今度は私の魔力も危ない。そうなったら、今度こそ電撃で――ああダメだ。攻め方全然分かんないッ)
――考えれば考えるだけ。
マリスタの体は固く重く、不安に支配された頭ばかりが空回りしていく。
(――ケイはあんなにあっさりと、勝負を決めてしまったのに。私はあいつに並び立つために、こんなとこで立ち止まってられないのに。あの泣いてた子との約束を守るために、勝ち上がって貴族と『平民』の対立を終わらせられるだけの説得力を持たないといけないのに)
まるでそれは、自分の体に三人分の重みを乗せているかのように。
(勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ――――どうすればいい? どうすれば――)
「!!! て……めェ……俺の話を聞いてやがンのかッ!!?」
――知らず視線が泳ぎ、マリスタは圭を探していた。
無論、求めた金髪はすぐに見つかる。圭は観覧席を一歩も動いてはいない。
(ねぇケイ、私はどうしたら……)
目が合う。それだけでひどくほっとした気持ちになる自分を、マリスタは否応なく認識し、
「 」
「――――――え?」
圭は小さく小さく首を振り、何かを彼女に語りかけた。




