「調子は乗るものじゃなくノッてくるものよ」
「ハッ! 気合を入れ直したくらいで戦況が覆るんなら――誰も苦労しないんだよ!」
「流弾の砲手!」
マリスタの背後に、数多の水弾が現れる。
(! 多い――けどこの程度なら、前方だけで十分だな)
ロハザーが口を閉じると同時に、青の弾丸が矢継ぎ早に空を走る。
ロハザーは危なげなく前方に精霊の壁を展開し、やはり微動だにせず弾丸を完全防御。弾けた弾丸が水の霧を濃く残し、消えていく。
(……目くらましのつもりか?)
即座に魔力知覚へと意識を集中させ、周囲の魔波を探るロハザー。
視界を潰すほどの濃霧の中、ロハザーはゆっくり自分へと近寄るマリスタの魔力を、はっきり感知した。
(やっぱり知識不足だぜ、お嬢サマ。魔力を感知される可能性ぐらい、当然考えて然るべきだろうが――!)
手をかざし、間髪入れずに魔力目がけて雷撃を放つ。
紫電はマリスタの魔力へと真っ直ぐに飛び――――そこにあった巨大な水泡を破裂させた。
「ほォ、囮かよ――――」
ロハザーの背後で霧が突き破られる。しかし、
(予測できないと思ったか? 騙し討ちなんて、実戦じゃ常套手段の一つなんだよ――!)
瞬時、兵装の盾を背後に展開するロハザー。
煙を突き破って現れた靴は、障壁に弾かれて床へ落ちた。
「ッ!? く――」
「やあぁあッッ!!」
真正面の霧を打ち払い、拳を振りかぶったマリスタが現れる。
「っ、ぅ……ッ!!」
――魔力を乗せて放たれた一撃。
顔面へと吸い込まれるようにして繰り出された拳は、ロハザーが辛うじて上げた左腕に防がれる。
両者離れ、再び対峙する赤と橙。
予想だにしなかった被弾、そして腕への衝撃に、ロハザーは苦虫を噛み潰したような顔でマリスタを睨んだ。
対する赤髪はしてやったりと微笑む。
「動いたね。とうとう」
「!――……」
拳を防いだ衝撃で、ロハザーは数メートルながら確実に移動していた。
霧が消えていく。観覧席の少女たちがどよめいていたのは言うまでもない。
「テメエッ……一発当てた程度で調子に乗るなよ!」
「お、あったあった。くつ」
(このクソアマ……!!)
「怒んないでよ。ちゃんと聞こえてるっつの」
靴をトントンと履き直し、マリスタはロハザーに視線を戻す。
「乗ってないわよ、調子になんて。――これから乗るんだから」
「!」
「次は当てるわ。当ててみせる!」
マリスタはそう嘯き、拳を打ち鳴らした。




