「諦めの境で」
◆ ◆
――――――――――うん?
体が動かない。
体もなんだか全身熱くて、どうも焦げ臭い。
ぼんやりと目の前を見る。少し遠いところに、小さく波打つ魔力の膜と銀髪の女の人がぼんやり見えて、――――ようやく私は、自分がロハザーと戦ってる途中だったと思い出した。
……うわ、やば。もしかしなくても私、意識飛んでたのか。というか死にかけてた?
急激に背筋が寒くなる。あれだけ電撃をくらったんだから、心臓止まってたっておかしくない。
冗談じゃない私は生きるわよとばかりに、急に視界と意識が鮮明になってくる。でも体はどうにもこうにも熱くて痛くて、呼吸でさえ胸のあたりが痛む。このコゲ臭いニオイといい……私、鏡で見たら黒コゲになってるのじゃないかしら。まさかね。
「…………」
……ちょっと待ってみたけど、監督官が駆け寄ってくる気配はない。
どれだけこうして倒れてるのか分からないけど、たぶんまだ試合は続いてる。
起き上がらないと。
「ッッ!! っく……!!」
「おい聞いてんのか、監督官ッ! どんだけ傍観すんだよ、こいつはもう気絶して――――」
女兵士さんとザードチップ先生に叫んでいたロハザーが、急に黙りこくった。たぶん私を見てるんだ。視線を感じる。
何とか起き上がろうとするけど、てんでダメ。今にも火を吹きそうなほどに体が熱くて痛くて、たまらない。
「……なんでまた起きてんだ、てめーは」
「は、ぁ……ッ」
通る空気が多すぎて、ノドにまで痛みが走った。
参ったな。もう立ち上がれないじゃん、私。
すってんすってん転ばされ、電気で死ぬ目にあわされて。だってのに私の頭の中は寝起きに近い状態で、いやにクリアだったし、冷静だった。状況をのんきに把握してる場合じゃ、絶対ないはずなのに。
……そうか。ひょっとするとこれが、「諦めの境地」ってやつかもしれない。
悔しい気持ちも負けたくない気持ちも、もうあんまりなくなっていた。
私が立たなきゃと思ったのは、これは……たぶん、人前で無様に倒れ込んでる姿を見られたくないからだ。
観覧席にはヴィエルナちゃんにナタリー、そしてケイもいる。それにきっと食堂では、去年みたいにパールゥとかエリダとか、みんなが集まって映像を見てるに違いない。ここが映ってるかは分かんないけど、映ってたら……みんな、死んだように倒れてた私が動き出して半泣きだったりするかも。なんて。
『マリスタッ!!』
そうそう、そうやっていい感じに悲痛な――――――って。あれ。
幻聴にしてはだいぶ近――――




