「今、杭は打たれ」
パールゥの声が俺を向く。
目を開け、改めてスペースを見た。
雷撃はまだ降り続いており、雷によって生まれた小さな衝撃波が、バチバチという音を伴ってスペースを荒れ狂っている。マリスタは撃たれっぱなしだ。全身をを仰け反らせるようにして硬直・痙攣している。
「…………」
みんなが見ている。
みんなが見ているぞ、マリスタ。お前の姿を。
やはりお嬢様では駄目だったと。
マリスタ・アルテアスが義勇兵コースなんて、やはり大貴族の道楽に過ぎなかったのだと。
それなのにあれだけ手酷くやられて、それはそれで可哀想ではないかと。
いい気味だ、そのまま潰れてしまえと。
近しい友人を除くすべての者達が、お前を落胆と同情、嫉妬の眼差しを向けている。
これらはきっと俺に言われなくても、ずっとお前自身が陰で感じてきた視線に違いない。
〝私は、このプレジアでただの劣等生だった。家柄があるだけ目立っちゃって、白い目で見られることもあった。でも仕方ないなって思ってたの。だって本当だったから。私は出来損ないで、大した努力もしないで。だから、当たり前じゃんって思ってた〟
これまでのようにオブラートに包まれていない、剥き出しになった感情の視線だ。
一度露わになった感情を、人はそうそう引っ込めようとはしない。一度剥かれた牙は、そう簡単には収まることはない。
もう後戻りは出来ないぞ、マリスタ。このまま試合に敗れれば、お前の世界は――――悪い意味で一変してしまうことになるだろう。
お前は自他ともに認める劣等生として、疎まれ蔑まれ遠ざけられ、肩見狭く居心地悪く、残りの学生時代を――もしかすると、その後一生を――過ごすことになる。それも一つの結果だ。甘んじて受け入れるべきだろう。たぶん、負けるっていうのはそういうことだから。
だが、それはお前が一歩踏み出したからこそ動き出した運命だ。
グウタラなサボり魔だったマリスタ・アルテアスが、遅かれ早かれ向き合わなければならなかった運命。それがやってくるのを待つのではなく、自分自身で近寄り対峙した結果だ。
「出る杭は打たれる」。今お前は散々に打たれ、地に埋もれようとしている。
「……さあ、マリスタ」
「アマセくん――どうして、笑ってるの?」
……だが、お前はゆらぐ。
〝アンタは私の恩人なの。そんな大事な友達と、私は並んで立ってたい。一緒に歩いていきたい。道を間違えてる時は、止めてあげたい! そんだけ!!〟
知っているぞ、マリスタ。自分の中に絶対の大義名分を見つけたお前が、どれほどバカげた力を発揮しやがるのかを。
出る杭は打たれる。
「ゆらげ。まだ立つことが出来るなら」
だが打たれた杭は打たれ強くなり。
一度出過ぎた杭は、打つことすらもままならなくなる――――。




