「創生淵源」
「その人間の本質とでも言うべきか――花で言うなら花言葉ってとこか。ケイ・アマセって人間の花言葉――根源は、『氷のように冷たい何か』なんじゃないかってことさ。ハッ、こりゃおっかねぇ」
「ザードチップ先生。またそういうことを」
非難の色を帯びたシャノリアの言葉に「別に悪気はねぇですよ」と手を振り――どこか楽しそうに、トルトは俺をじろりと見た。
「創生淵源は所有属性のようにはっきり調べることは出来ねぇ。自分が一体どんな本質を持つ人間なのか、んなもんは自分で理解してくしかねぇから当たり前っちゃ当たり前だが――面白ぇじゃねぇか。自分が何者かも分からないお前に、創生淵源は語りかけてんだ――――『お前は氷のような人間だ』ってな」
「俺が……氷のような人間」
「でも、本当に珍しいことなのよ。応用五属性が創生淵源として顕れたなんて、私は聞いたことさえないもの……本当にあなたは、どこからやって来たんでしょうね」
「ま! いっぺん見ちまえば興味もねぇけどな、所有属性自体にはよ。さ、とっとと続きだ続き。検査事項はまだまだ残ってんだ」
付いていかない俺の脳など待たず、検査は続く。
しかし――その他に、特筆するような出来事は何もなかった。
筆記、文字が読めずに判定不能。
魔法実技、一切知らずに判定不能。
俺は所有属性以外、何一つ測れる力を持ってはいなかった。
測れる段階にすら、なかった。
「……分かっちゃいたけどよ。なぁディノバーツ先生。こいつ……マジで初等部への編入も視野に入れたほうがよかないですかね。こいつが中等部に編入したところで、文字は読めねぇ勉強は遅れるコミュニケーションは取れねぇで、放校処分待ったなし、なんじゃないですか?」
「でも、通訳魔法と翻訳魔法を使えばある程度は……」
「公的な場ならいざ知らず、日常生活でまでご丁寧に使ってくれる奴ばかりじゃないでしょ。初等部なら、そりゃガキどもに囲まれてになりますが、文字なんかを一から勉強するには――」
「私が勉強見てあげますっ!」
ぴーん、といやに伸びた背筋で、輪の外にいたマリスタが立候補する。もれなく三人分の疑いの目が向けられて明らかにたじろぐマリスタだったが、その背筋は伸ばされたままだった。
「いやあの、えーと……わ、私の勉強の復習にもなるかもしれませんしっ!! せっかく知り合えたわけだし、もっとイケメンとお近づき……じゃなくてっ、彼がどんな出で立ちの人か、分かっていますしっ!……それに、アマセ君が中等部になったら……私と同じ、レッドローブになるでしょうし。授業も一緒だろうから、教えやすいです」
「……確かにそうね。色々気を遣ってくれる友人がいたほうが、アマセ君もやりやすいと思うし」
「いいんですか? おすすめはしませんぜ、わたしゃあ」
「アマセ君はどう?」
訊ねてくるシャノリア。俺が気になることは一つだった。
「シャノリア。学校には、図書室はあるのか?」
「へ? ええ、あるけれど」
「なら中等部編入にして欲しい。マリスタと同じ学年は可能なのか。確か最上級だったよな」
「え、ええそれも……確かに同い年らしいし、可能ではあるけど。本当にいいの? 中等部六年生って、勉強だってある程度――」
「足りない分は図書室で勉強する。だからそこで頼む」
とにかく、知らなければ。
世界のこと、魔法のこと、そして魔女のことを。
「――うし、それじゃ決まりだな。その旨と検査結果、とっとと校長に報告しに行くぞ」
トルトが大きな伸びをして去っていく。しばらく俺の目を見て小さく笑った後、シャノリアも続いた。俺も続こうとして、マリスタに回り込まれた。
その頬は期待に紅潮し、目は心なしか輝いている。ここまで外見でワクワクしてるのが分かる奴も珍しい。
マリスタが手を差し出した。
「……、なんだ」
「同じクラスだよね、きっと。――今度からよろしくね、アマセ君……ううん。ケイっ!」
「!」
………………まあ、いいか。言いたいことは色々あるが、どうせここにいる間だけの付き合いだ。
俺はひとりそう納得し、マリスタの手を握った。
「よろしく頼む。マリスタ」
「うんっ!」
こうして、俺――ケイ・アマセは中等部六年生として、プレジア魔法魔術学校に編入することになった。




